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投げ終わりのフォームから、石を投げたのは麗奈だということは姉ちゃんからも分かる。
意外な奴からの投石に、姉ちゃんは目を見開いたが、俺たちに歩み寄ることはせず、今度こそ走り去っていった。
「何すんだお前」
「何って、お姉さんは菜月を止めようとしただけ」
「っ!!――――――ごめん」
考えるより先に、先に口に出そうになった。俺は姉ちゃんに危害を加えようとした麗奈に怒りを覚えていた。
この思いがお門違いだ、だからあやまった。
「わかった?君は菜月に甘すぎる」
麗奈の行動を否定するのは、俺の今までを否定することに他ならない。
姉ちゃんは敵。突きつけたのは俺。宣戦布告はとっくに済ませている。
なのに姉ちゃんを見逃そうとしていた。
当然の怒りから、姉ちゃんと琥珀さんだからって、目を逸らして日和った作戦を立てた。
琥珀さんとだって全力でやればもう少し痛手を追わせられたのに。
中途半端に追い込んだせいで、雪兄が被害に合い、挙句の果てには沙織さんまで怪我をした。
『少年はいつも中途半端だ。中途半端に介入して終わらせて、誰かが復讐にでも来たらどうする。麗奈にだって危害が及ぶかもしれないんだぞ!』
ハハ、琥珀さんの言う通りだ。俺の認識が甘かった。俺と雪兄がやられたことは、些細なことだって、捉えていたこと自体が間違い。
仲間がやられたんだ、沙織さんと麗奈の怒りは当然だ。
死にものぐるいでやるしかねえ、相手もそのぐらいの気持ちなんだから。
「……失望したか?」
麗奈がどんな目で俺を見てるか怖くて、瞳に写った俺の情けない顔を見たくなくて、俺は俯いた。
少しの間が合って、麗奈の手が動く、俺の頬をギュッと挟んできた。
顔を持ち上げられて、視界が急に上を向いた。
「どう?失望した顔してる?」
「なんでそんなえっちな顔してるんだよ」
「キュートアグレッション。君が可愛すぎて仕方がない」
「は、はは、顔か」
麗奈は首を横に振って、口を開く。
「君の全部が好き――――だから、今回ばかりは甘さを捨てて徹底的にやろう。」
「やるぞ、守りになんて入らねえ、どうせなら俺たちから打って出てやろう」
「ううん、作戦自体は変えなくていい。琥珀と菜月が一緒にいたら、こっちが束になっても勝てない」
「逃げられるかもしれねえもんな」
そうなるとGPSを手放すかもしれねえ。
「うん。だからそっちは一旦放置でいいと思う」
「わかったよ、んじゃ、病室に戻るか」
千秋も放置してきた。あいつ怯えてたし、今頃泣いてるかも。
そう思うと、すぐにでも戻らなきゃ行けない気がしてきた。
「そうだね、義妹を迎えに行かないと、きっと寂しそうにしてる」
手を繋いで病室へと急ぐ。病院内へと入った。
「申し訳ありやせんでした」
「まったく!前代未聞ですよ!」
受け付けの横を通ろうとした時、伏見さんが病院の関係者に頭を下げているのを見た。
以下にもヤクザな見た目の強面を、ガミガミと叱りつけられるなんて、あの受付さんも強い人だ。
「一気に通り抜けるぞ」
麗奈は頷いた。受け付けさんに見つからないようにして、サッと通り抜ける。エレベーターの呼び出しボタンを押して、三階へと移動した。
そのまま病室に一直線、個室の扉を開こうとしたが、中から話し声が聞こえる。
「あ、お前」
「しっ、少し聞いてみよう」
麗奈が扉に耳を当て、盗み聞きを始めた、それを咎めようしたら口を手で塞がれた。
「師匠的にはやっぱり悠太が責めで雪人が受けですか?」
「やっぱ悠太くんのヘタレ受け一択ですよね〜、理想のシチュは童心に帰った二人が一緒に寝ちゃって、悠太くんのフェロモンに雪人さんがムラムラっときて、我慢できなくなって――きゃー!いいですねー!」
「さすが師匠!ちょっとドキドキしてきちゃいました!」
病室内には腐のオーラが充満してるに違いない。
中に雪兄いるんだよな……地獄かよ。雪兄が身動きを取れないのをいい事に公開処刑じゃん。
つーか、沙織さんも小学生相手に何を話してるんだよ。
「……ほ、本人の前でやめてくれないかな」
「雪人、静かに」
「は?俺が悪いの!?」
「ここは病院内なのでお静かに〜」
「あ、あぁ、すまなかった」
雪兄の訴えはご腐人の二人の前には無力だ。
「アレの大きさも、受け責めの大事な指標になると、思いますけど、師匠は悠太のアレ、見たことあります?」
「無いですね〜、千秋ちゃんはありますか〜?」
「お風呂を覗こうと何回か挑戦しましたけど、私が脱衣所に近付くとバレるんですよ」
お風呂は命の洗濯ってのは嘘っぱちだ。
麗奈にアイコンタクトを送ったら、親指を立ててきた。
そういうところの警戒心はこいつに育てられた。
「あら〜、でも今日から毎日チャンスじゃないですか〜、三百六十五日付きまとえば、さすがの悠太くんも諦めますよ、きっと」
「ふっふっふ、私が暴いて見ます!きっと悠太は大きいと思いますけど!」
「私は小さいと思います〜というかそうあって欲しい!」
「おい」
雪兄の声がした。そうだよな!ちゃんと止めてくれるよな大人として。
「悠太のサイズがわかったら、俺にも教えてくれないか?」
雪兄、あんたにはガッカリだよ!
「雪兄てめぇえ!」
勢いよく扉をスライドさせ、病室に飛び込む。
俺の襲来に肩が飛び跳ねる病室の三人。今からその腐った性根を叩き直してやる。
「なんで千秋の行く末を正すべき大人が、一緒になって騒いでんじゃねえよ!雪人さんよぉ!」
「待て!山本さんだって一緒じゃないか!」