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「そ、それだけなのか?」
「勿論それだけじゃない……けど子供の義弟くんには内緒、ここからは大人の世界」
心底バカにしくさった顔でこっちを見てやがる。
さっきまで落ち込んでたり顔を赤くして可愛げがあったのに……この辺でこいつには現実を教えてやろう。
「ふっ、女同士じゃあ結婚出来ないんだぜ」
余裕のしたり顔だった静香が明らかに動揺しているようでテーブルに突っ伏した。
歪んだ家庭環境とは言え……知らなかったの?
同性婚が認められている国を教えてやるべきか、でも教えたらすぐにでも姉ちゃんを説得して旅立とうとするだろうな。
そもそも姉ちゃんは静香の事をどう思っているのだろうか。確か抱き枕とか言ってた気がするんだが。
哀れ海、哀れ静香、姉ちゃん以外は哀れな三角関係に同情する気持ちすら生まれてきた。
「そんな……私はお姉様と家族になれない……?ベッドの中であんなに愛してくれたのに……」
『結婚しないと家族になれないの?∑(゜Д゜)じゃあ君……お姉さんと結婚しよう』
混ざるな、危険。
愛されたとか言うな生々しい、実姉の百合は妄想したくない。
「その手があった、義弟くん、今すぐ私と結婚しよう」
こんなに嬉しくない残念なプロポーズがかつてあっただろうか、俺が知ってる物語の中では存在しない。
「馬鹿、誰が何と言おうと麗奈はうちの家族だよ、姉ちゃんも言ってただろ?」
暴走を始める危険人物を無視して、麗奈に家族だよと言い聞かせる。
『でもお姉さんは秋山だよ、君は春日……家族じゃないんだぁ(´;Д;`)』
「悠太くん聞いてる?美人な同級生がプロポーズしてあげてるんだけど」
ええいやかましい!
「麗奈、持って生まれただけの苗字に何の意味がある、周りが家族じゃないって言っても、麗奈も俺も菜月姉ちゃんも家族って言ってるんだから家族だ、涼夏もそうだぞ」
『パパー。・゜・(ノД`)・゜・。』
ギュッと抱きついてくる可愛い娘(仮)を抱きしめてやる。
「え、悠太くん上級生にパパって呼ばせて……そう言う趣味?……やっぱ結婚やめる、他の方法探す」
待てコラ、残念プロポーズに引き続きなんだこのアマ……嬉しいはずなのに振られた気分だ。
なんとも言えない複雑な気持ちを俺の胸に顔を埋める麗奈の頭を撫でることで癒す。ふっ今なら何を言われても効かない自信がある。
「この麗奈の可愛さがわからんとは……是非そうしてくれ、っていうかそんな昔から親が居ないんだったら生活費はどうしてたんだ?」
「可愛さは痛いほどわかる、けどドン引きだわ……生活費は幸い祖父母が出してくれた」
「そうか、引き取ってはくれなかったのか?」
「本当はそうしたかったけど、祖父母の家は小さい上に、私の両親を毛嫌いしてる兄夫婦が居て、引き取って貰えなかった」
子供に罪はないだろうに……、きっと祖父母もそう思ったに違いない。
しかし、麗奈と言い静香といい……なんで可愛い娘を置いて居なくなってしまうのだろうか、慣れてきた静香はクソ小生意気だが、それすらも可愛いと思ってしまうのが親じゃ無いのか。
「なぁ、この件が片付くまでウチにいるって話なんだけど」
「お姉様取られるのが嫌だから出てけっていうつもり?」
「そんなつもりないから黙って聞け、この件片付いても家には1人なんだろ?ならそのままうちに住まないか?」
この家には親から酷い扱いを受けたり、親を亡くして孤独を知っている姉ちゃんも麗奈もいる、俺も葉月姉ちゃんを失って自発的にだが、1人の辛さはわかる。
麗奈の時も思っていたが、これは完全に傷の舐め合いだ。それでも、居場所を提供出来るならそれに越した事はない。
「悠太くん、いくら君が女顔でも、私は葉月お姉さんに助けられた時から女の子にしか興味が無い……だから家に住まわせて貰ってもパパとは呼んであげられない」
俺の周りの女子は特殊な奴ばかりだな、美鈴、ここに仲間がいるぞ、良かったな。
「お前って本当生意気だよな、別に下心なんかねえよ」
本当に下心のかけらすら無いので軽く否定をする。
「どうだか、病室でエロ本受け取ってた癖に」
きっと『クールでわがままな美女お姉さんを強制×××』のことを言っているんだろう。あれは麗奈が捨てなければ少し読んでみたかったのは内緒だ。
けどあれでいいのだ、読んでしまったら最後、麗奈に罪悪感を抱いて顔も合わせられなくなること間違いなし。
「あれは海が勝手に忍ばせていただけだろ?不可抗力だ」
『目の前に本物がいるからあんなのいらないよね(΄◉◞౪◟◉`)でも静香ちゃんが一緒に住むのもいいね(о´∀`о)お姉さん賛成!』
その顔文字怖いからやめてくれ。
「へぇ……でも海も隣に住んでるから、本当に惜しい申し出だけど遠慮する。ありがとう」
言葉の通り、本当に歯を食いしばって惜しい申し出に耐えているようだ。
一応海の事もほんの少しでも心の中にあったのね、忘れているとばかり思ってたわ。
「そうか、でもあのエロ本のタイトル、海にとっては静香がドンピシャなんじゃないか?」
先程までの仕返しだ、海は完全な巻き込み事故だが気にしない、強いて言うならエロ本の仕返しとしておこう。
姉ちゃんをお姉様と慕い、同性婚を望む静香にはドン引きな爆弾を投げ込んだつもり……だったのだが……。
目の前の百合女は俯き顔を真っ赤にしてスカートの裾を握りしめプルプルと震えている。
この反応は予想外だ……しばらく黙っていたかと思うと
「馬鹿!死ね!」
「――――――――――ぐっ!」
玉が……潰れ……!
急に立ち上がり、暴言と共に動けない俺に蹴りを入れてリビングを去って行った。
息が詰まり、時間が経つにつれて脂汗が滲んでくる。
深く座っていた訳でもない、完全に上から踏み付けるように繰り出された見事な金蹴りだった……。
『いくらなんでも、あれは君が悪いよ、セクハラだし……後でごめんなさいしようね?(ーー;)』
スマホの画面を見ても返事を返すことができない。金的の痛みというのは言葉には言い表せ無いが、女子の想像を絶する痛みだ、目の前の麗奈にはわからない。
痛みが引くまで身を丸めて玉を抑えて悶絶する女顔な俺の姿はきっと世界一滑稽に見えただろう。