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生きてる限り負けてねえ、次がある。
ボロボロにされるのなんか慣れてんだ。
一撃で数々の相手を倒してきた琥珀さんのことだ。
今頃KO出来なかったことに、悔し涙を流してるんじゃねえか。
自信を無くしてるかも、「くくっあはは!」そう思うだけで笑いが漏れた。
肋が痛い、色んなところが痛くて、涙が出てきたが、愉快でしょうがない。
「勝てる!」
次はコテンパンにされることもなく、圧倒できる自信がある。
琥珀さんは間違いなく全力だった。俺を病院送りぐらいにはしてやろう、それくらいの気迫だった。
砂を踏む音が聞こえた。誰かが公園に入ってきた。
「悠くん、迎えに来たよ」
この声は涼夏だ。
麗奈の差し金か、幼なじみの涼夏が迎えに来てくれた。
今はお前の顔が見たかったから丁度いい。
「おー、涼夏か、ちこうよれ」
「地面に寝てる癖に態度大きいなあ。今日はめっちゃコテンパンされたんだね」
流石、見慣れてるだけあって冷静だ。
涼夏が俺頭の上のすぐ上に立った。
ハーフパンツにTシャツ、少し寒そうな軽装だ。
自分がボコられたわけでもねえのに、痛々しそうな顔で俺の顔を覗き込んでる。
「聞いておくれよ、すずえもん。琥珀さんったら酷いんだよ」
未来の道具でも出してくれないかな、すずえもん。
痛みが一瞬でなくなる薬とか……危ないお薬じゃなくて、未来な方。
「どうせ悠太くんが挑発したんじゃないのかい?」
しましたとも。盛大に小馬鹿にしてやりましたとも。
言い当てられて、渋い顔で涼夏を見る。
「どうせ琥珀さんの拳には信念が足りねえとか言ったんじゃないの?」
「言った」
「うわぁ、そりゃコテンパンにされて当然だよー」
「違ぇねぇ、でも見たことない形相して……琥珀さんのあんな怒った顔初めてだったぜ」
「良く生きてたね」
「俺には約束があるからな、死にものぐるいで耐えたさ」
涼夏がしゃがみ込む。自然と目線が上に、ハーフパンツからチラリと覗く、健康的な太ももが目に入った。
「かっこつけながら、太ももみないでよ」
罪悪感は微塵もない。
素敵だから見てしまった、これ以外に理由があるかよ。
「こんなにズタボロにされたんだからラッキースケベくらいあってもいいだろ」
涼夏はげんなりして「うへぇ」と舌を出した。
「悠くんからエッチなこと言うなんて珍しいね、痛いの?」
アドレナリンが出まくって脳みそがハイになってる。
「痛えよ、元気だったらこんなとこに寝っ転がってない」
涼夏は顎に人差し指を添えた。口を尖らせて、斜め上を見た。
首も傾げてみたりして、あざとく考えるポーズの完成だ。
普通に可愛いんだけど、こいつがやると甘ったるく感じる。
少し間が空いて、涼夏はグーで手のひらを叩いた。
「女の子の胸には鎮痛効果があるんだって、触ってみる?」
朝も似たような文言を聞いた気がする。
「触るほど」
ないだろって言いかけて、言葉を飲んだ。
強調するように寄せられた腕の間に、麗奈を超え、千秋以上に実った夢がそこにはあった。
「んっふっふー。この間太ったって言ったじゃん?」
夏休みの海での話ね。めちゃくちゃ水着着るの嫌がってたから覚えてる。
「おう、全然太ったようには見えなかったけどな」
「身内はみんなそう言うの!その後少しダイエットしたんだけどね……残ったの」
重たい体を何とか起こす。
「マジかよ……やったじゃねえか!ずっと望んでたもんな!俺も嬉しいよ!流石蓮さん遺伝子だ!すっげぇ!触っていいか!?」
はっちゃけた俺に対して、涼夏は一歩後ずさった。腕で胸を隠して、少しうつむきがちに顔を下げる。
「やっぱだめ」
「なんでだよ」
「キモイから」
キモイから、キモイから、キモイから。
涼夏の言葉が頭の中で木霊する、ほぼ生まれた時から一緒に遊んでた幼なじみに、初めてキモイって言われてショックだ。
いや、俺が悪いんだけど。
普段ならこんなこと言わない、がっつかない。
俺は紳士だから遠目に少し見るだけだ。
「……ごめん」
「いいよ。私以上に喜んでたからちょっと引いちゃった」
麗奈とタッグを組んだり、一人で誘惑してくる、なのに俺から行くと怒られる。
やっぱ、ちょっぴり理不尽だ。不貞腐れて涼夏から顔を背けた。
「悠くんは私が大きくなりたいって言ってたから、喜んでくれたんだよねっ!いつもはそんな事言わないもんね〜」
直ぐに焦りだした。
「まあな、どんなお前でも良いけど、喜んでんの見ると、やっぱ嬉しい」
「……悠くん!」
ばっ、と広げられた腕が見えた。涼夏に引き寄せられて、頭を抱かれた。
「今日も頑張ったからねっご褒美だよぉ!」
ぎゅむぎゅむと力を込められる。
「ど、どうかな、柔らかい?心臓の音とか、聞こえる?」
「ぶっちゃけめっちゃ痛い」
腫れた目とか、頬とか、切れた唇もそう。感触とか味わう前に、めちゃくちゃ痛え。
「はわわ!ごめんね!」
涼夏の腕が外れた。俺は動かず、そのまま心音を聞いてみる。
トクントクンと、鼓動を刻んでる。麗奈よりも騒がしいくらい鼓動が早い。
「なんか浮気してるみたいで麗奈に悪いな」