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洗面所で顔を洗い、キッチンに立つ。
引き出しからフライパンを取り出してIHの上に乗せ、電源を入れる。
冷蔵庫を開き、卵を二つとウインナーを取り出して、温まったフライパンに油を引き、卵を二つ割った。
我ながら上手く割れた。卵の上にコショウを少々振って、蓋をする。
焼けるのを待つ間に、冷蔵庫の野菜室を開けた。
お、レタスと、ミニトマトもあるじゃん。
食器棚から平皿を二枚取って作業場に並べる。
取り出した野菜を水で洗い、レタスは適当にちぎり皿の上に敷く。
目玉焼きが焼ける香ばしい香りが漂ってきたところで、フライパンの蓋を開けた。
ジャストタイミング――目玉焼きの縁が茶色くパリパリなくらいが好みだ。
目玉焼きをレタスに寄り添うように置いて、レタスの上にミニトマトを飾る。
一旦ここでキッチンのカウンターに皿を置き、まな板を軽く水で流して、作業台の上に置く。
まな板の上にウインナーを開封して、皮が弾けないように、包丁で軽く筋を入れて、フライパンの上に乗せた。
このパチパチって音いいよなぁ。
制服に着替えた麗奈がリビングに入ってきたところで、完成した。
「ふああ、もう出来てるぞ」
「ありがとう」
麗奈が完成した料理をダイニングテーブルまで運んでくれるから、俺は茶碗を二つ取り出して、予約で炊いておいたご飯を盛る。
ご飯を持ってキッチンから出たところで、自分の皿からミニトマトのへたをつまんで、俺の皿に移動させている麗奈と目が合った。
半分くらいまで移動した手が、ぎこちなく進む。
「いや、戻せよ」
注意は無視され、俺の皿にミニトマトが着弾した。
「リコピンには美肌効果があるからね。君が食べなさい」
なんて言う麗奈に、呆れながら、ご飯をテーブルの上に置いて箸を取りに行く。
「なおさらお前が食えよ。俺的顔面ランキング世界一」
その美貌を維持するために、好き嫌いしないでくれ。
「褒められてもミニトマトは嫌い」
「ミニトマトは麗奈のこと好きかもよ」
箸を持って戻ると麗奈がミニトマトを睨みつけていた。
手を動かし、皿と体の間をいったりきたり。
俺が椅子に座ると、麗奈も座ったが、目はミニトマトを仇のように睨みつけたままだ。
「君の口移しなら」
しきりに迷って、思いついたように決断を下す。
アホか。行儀悪い。
「俺が箸で食わせてやるから食えよ」
「指でなら」
それも行儀悪いけど仕方ない。こいつなりの最大限の譲歩、これ以上うだうだやってると意地でも食わなくなる。
「じゃあいただきます、するぞ」
二人で手を合わせて、「いただきます」朝食の時間だ。
目玉焼きを箸で裂いて、口に運ぶ。コショウが効いてて上手い、それに縁のパリパリも癖になる。
夢中になって食べているうちに、朝食は終わった。
ミニトマトも食わせた。わざとらしく指ごと口にふくまれて、ちゅーちゅー吸われた、もう二度とやってやんない。
「悠太のミニトマト美味しかったよ」
お皿を片付けるという、自分の仕事を全うしながら、麗奈は感想を言ってきた。
「次からは自分で食えるな?」
「無理」
即答かよ。ん?まだなにか言いたそうに口がもごついてるぞ。
「君の味がしたから食べられたのに」
瞬間舌が指を舐る感触を思い出してカッと頭が熱くなり、台拭きをテーブルに投げつけ、背を向けた。
「――っ!着替えてくる!」
「だから君が良いって言ったでしょ」
うるせぇってんだよ、バカ!
怒りのままにリビングを出て、階段を駆け上がり自室に入った。
朝からしっとりしすぎなんだよあいつは。胸の話とか、君が良いとか――結局良いように転がされて、あームカつく。
パジャマを脱ぎ捨て乱雑に衣装棚を漁り、着ていくシャツを出した。
シャツを視線を自分の胸に持っていく……少し脂肪が盛り上がってるような、馬鹿言え、麗奈の冗談だ。
頭を振って雑念を振り払い、着替えを済ました。