表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/667

64頁


空になった皿を静香と麗奈が片付け、二人で仲良く皿洗いをしててれているので俺は、静香の話をゆっくり聞くため、ソファーに移動した。


普段なら俺が皿洗いをしているので、誰かに任せて座っているのは落ち着かない、きっと俺は将来結婚しても家事を分担しながら働くのだろう。


姉ちゃんの教えの一つに、今の時代男も家事を出来ないと駄目だ。ってのがあった、確かにSMSで旦那が家事を全くしない、料理にケチをつけてくると書かれていたりするのをたまに見かける。


そう言った意味では姉ちゃんの教えに死角はないな、この際本人が料理を出来なかったのは置いておいたとしても、いつだってあの人が言うことは正しかった。


正しいけど、正しいなら何で死んじまったんだよ…。


「何かあったの?」


感傷に浸っているうちに洗い物を終えたのだろう、静香が手を拭きながら俺に声を掛けてきた事で現実に引き戻された。

麗奈は既に俺の隣に座って、心配そうに俺の顔を見ている。

どうやら葉月姉ちゃんの事を考えているうちに暗い顔をしていたようだ。

「いや、何でもない……さあ、静香も座って話しを聞かせてくれ!」

これから静香の話を聞こうって時に空気をぶち壊したく無いので慌てて誤魔化すと、彼女は涼夏と違って深くは追求しないタイプなのだろう、若干訝しげな表情でこちらを見つめつつも、ソファーの対面に座った。


『大丈夫だよ、お姉さんが隣に居るからね』

麗奈には考えている事を見抜かれていたようで、俺にだけ見えるようにスマホの画面を向けている。

それに対し、うん、とだけ頷いて返事を返し、静香に向き合う。

「じゃあ、話すけど……本当に平気?」

すぅっと息を吸い満面の笑みを作る。

「平気、問題ない、大丈夫だ」

別に空元気ではない。


「そう、じゃあ料理人を目指す様になったきっかけ話すね?」

『わくわく(((o(*゜▽゜*)o)))』




「小学6年生の頃の話なんだけど……両親がほとんど家に居なくていつも1人だった」

少し間を開けてポツリポツリと静香が話し始めた。

嫌な事を思い出している様子で手を膝の上でぐっと握っている

「辛い話になるなら無理に話さなくてもいいぞ?」


「お姉様と結婚したら義弟になるから、君と麗奈さんには私の過去を知っておいて欲しい」


仮に姉ちゃんがOK出したとしても日本の法律が許してくれないだろ。

などと野暮なツッコミを入れるような事はしない、確かに俺が入院してる間姉ちゃんと静香の間に何があったかは気になる。

だがこのタイプの人間は好きな物の話にのってしまうと2時間くらい脱線してしまう危険性がある。


「わかった、じゃあ続きを聞かせてくれ」

そこ触れないの?とがっかりした静香の視線を受けながらそのまま流す。

麗奈にも流石にこの地雷は見えているようで、スマホをポケットにしまって発言を拒否して、話し聞きます!と言わんばかりに黙りこくっている。


「むぅ……まあいっか、あの日も両親がたった3千円を置いて家出てって2週間くらいたってたの……それでも暴力とか振るわれないから居ない方がよかった」


小学生の女の子が家に2週間もひとり?

覚悟はしていたけど重い話しだな。


そう言えば、海と静香は幼馴染だったはず。

「海は、その時一緒じゃなかったのか?」


「あの頃の私は貧乏だって学校でも見下されて、いじめられて……同情されてなくて海とも一方的に距離を置いていた」


なるほど、姉ちゃんや涼夏に同じような事をしていた俺としては身に覚えがありすぎて耳の痛い話だ。


「それで……ある日等々お金が無くなって、学校に行けば給食があるから何とかなるけど……丁度夏休みだったの」

そもそも3千円で2週間過ごすとして1日3食食べられない。

相当きつかっただろうな……。


「最初のうちは水だけ飲んで我慢してた……けど2日くらいすぎた当たりかな、ガスが止まって、次に水道が止まって電気もつかなくなった」

ギリっと歯を食いしばる、静香の親に対してふつふつと怒りが湧いてきた、自分の娘に対して何でそんな残酷な仕打ちができるんだよ。


「それで……どうしたんだ?」


「夜になるとお腹も空いて家にいるのが怖くなった、幽霊が出るんじゃないかって……それで思い切って街灯がある外に飛び出した……でも三日間も食べてないから足取りはフラフラ、ポケットの中には20円しかなかったから食べ物も買えなくて、ただただ歩いてたの、気づいたら美味しい匂いに釣られてレストランの前にいた……そしたらね」


と区切った。ここからが本題なのだろうか、それともここからまだ事件が起きるのだろうか。


「レストランの中から私をいじめていた同級生が家族と出てきたの……私はハッとして隠れようとしたんだけど、足がもつれてね、その場で転んで同級生に見つかった」


どうやら後者だったようで悔しそうに眉間に皺を寄せ、目には涙を溜めて、それを堪えるように目元を手で抑えている。余程惨めな目に遭わされたんだろう。


「お風呂も入れなかったし、転んで泥だらけだし、家族と一緒になって指を指して笑われた。悲しくて、悔しくて言い返した……そしたら貧乏乞食のガキが生意気言うなって、同級生の父親に暴力を振われそうになって……もうだめだって思った……そんな時にね、通りがかった人が助けてくれたの」



過去の話しながら残酷すぎる話しの中に救世主が登場したようでホッと胸を撫で下ろす。

ふと、隣の麗奈を見ると整った無表情な顔を少し歪めて涙を流していた。

「凄かったよ、中学生くらいの男女2人組でね、割って入って、女の子の方があっという間に父親をコテンパンにのしちゃった」

先程とは一転して目を輝かせて語る静香に、俺は中学生くらいの男女二人組、と聞いて頭の中に、ある2人が頭によぎった。


「その2人ってどんな見た目だった?」


「えっと……女の子はお姉様をそのまま幼くした感じかな、男の子はよく覚えてないけどカッコ良かった」


ビンゴだ、ヒーロー気質で曲がった事は許さない、葉月姉ちゃんと雪兄だ。

…………病院で再開してるけど2人ともわからなかったのか?雪兄の顔を覚えるのが霞むほどに葉月姉ちゃんのインパクトが強過ぎたのか?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ