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カバンを持って戻ってきた麗奈と、お隣さん家のインターホンを鳴らした。
すぐに鍵が開いて、涼夏が出てきた。
「おはよー悠くん!麗奈さん!」
しっぽが着いてたらパタパタ振っているであろう満面の笑みである。
「おう、おはよう」
『おはようすずかちゃん』
友達がいないことを指摘されたショックから立ち直れていないみたいで、涼夏の呼び方がいつもの呼び方と違う。
麗奈の無表情も心做しか悲しげに見える。
「なんで平仮名でちゃん付けなの?」
「麗奈はな……友達がいないことに気付いて打ちひしがれてるんだ」
俺の言葉を聞いて、涼夏は、わっと驚いた表情をした。
「涼夏ちゃんは麗奈さんのお友達だよっ!」
ナイスフォローだが、そういうことじゃないんだよ。
『お姉さんね……教科書借りれる友達いない(´;ω;`)』
「私の貸すよ!いくらでも!全部貸す!」
『涼夏ぁ(っ´>ω<))ω<`)ギュッ♡』
二人が抱き合う。
俺の中でも最近マストな百合が始まった。
学年違うから教科書借りたって意味ないだろ、なんて野暮なことは言わねえ。
俺はこれを望んでる。濃厚な百合も良いんだけど、軽く触れ合うくらいが、朝のゆったりした時間に丁度いい。
クール系美少女と天真爛漫系美少女の絡みだぜ?
挟まるなんて邪道なことはせず、ずっと眺めていたい。
神田さんが来るまで、至福の時間を胆嚢させてもらうとしよう。
「ねえ麗奈さん。なにか憑き物が落ちた?」
涼夏が麗奈を見上げる。
顔を見て判断できるまでの仲になったか。
『うん。いいことがあってね』
良いことってのはこの前夜遊びをした時のことだろう。
あの日から、毎日寝る前の三十分を散歩に使ってる。
あの公園の前まで行って帰る、それだけだが、散歩はすげえ気晴らしになることを身をもって体験させられた。
「悠くんもぐっすりみたいだし……もしかして」
俺のことは良いから、百合を続けてください。
『公園に行ったの』
「ええ!公園ってあの公園!?悠くんが!?」
涼夏が目を見開き、驚きで頭を後ろに下げた。
そうだろうそうだろう。俺もびっくりだよ。
例え死ぬことになってもあそこにだけは近寄らねえって思ってたし。
『お姉さんが無理矢理。涼夏の教育方針と違うことしてごめんね』
「私は嫌なことからは逃げていいよ。周りに流されてみなって教育してるからね」
『そうも言ってられないくらい。悠太の中で背負うものが大きくなってて。自分を追い詰めて、そろそろ危ないとお姉さんは思ったので、荒療治です』
「へぇえ、それで、連れていったんだ……中まで入ってないよね」
『入ったよ。忘れた記憶を取り戻して、塗り変えるにはそれくらいしないとね』
「……すごいなぁ、麗奈さんは。私は傷口を広げるくらいなら忘れさせたいって思っちゃうから、マネできないや」
涼夏は自信なさげに俯いた。
『涼夏が下地作りをしてくれたからだよ』
麗奈は涼夏の頭を優しく撫でた。
「私が?」
『うん。涼夏が献身的に悠太を思って、支えてくれたおかげで、悠太に物事を考える余裕が生まれた。思考が鮮明になると、色々考えるでしょ?』
涼夏は黙って頷いた。
『だからお姉さんは悠太の記憶の整理をしただけ。涼夏の方が何倍も悠太のためになってるよ』
そこまで謙遜しなくてもいいんだぞ。俺には涼夏も麗奈も必要不可欠な存在なんだから。
「えへへ。でも、それだけ悠くんに信用されてるってことだねっ」
ニヤニヤとヤラシイ視線を涼夏から向けられる。
「お前のこともな。二人とも全幅の信頼を置いてるよ」
だって何があったってこの二人は裏切らねえもん。それだけは心に刻んでおく。
麻波家の前に、一台の車が止まり、人が降りてきた。
「すみません。おはようございます」
礼儀正しくやってきたのは神田さん。この人も朝から大変だ。
「神田さんおはよう!うっかり上司を二人も抱えると大変すね」
自由奔放な蓮さんと、しっかりしてる風で天然な姉ちゃん相手に良く頑張ってると思う。
「そ、そうですね、でも仕事ですから。はぁい」
会話を終わらせられた。
なんと言うか、やはり言い回しも言い方もよそよそしい。
敬語は元からだけど、距離感も遠く感じる。
スマホを渡そうと、手を伸ばし一歩踏み出すと、神田さんは一歩下がり、手を限界まで伸ばして受け取ってくれた。
「美代子さんうちのお母さんごめんね」
「大丈夫ですよ!まだ出社前だったので……時間もギリギリですしー、良かったら学校まで送っていきましょうか?」
何この対応の違い。俺はこんな優しい人に距離を置かれるなんて、何をしたんだ。
「うーん。どーしよ」
涼夏がチラっと俺の顔色を伺ってくる。
「麗奈さんと、悠太くん、も乗って行ってください!」
また気を使わせた。明らか俺の名前を呼ぶ時だけごにょごにょしてたし。
後部座席に乗ってりゃ顔合わさなくても済むけど、気まずいって。
どうする?やんわりと断って歩いていくか?
神田さんは童貞