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静香は普段から料理してるんだろうな。

まるで雪兄の店で聞くような高速で包丁を扱うトントントンと小気味のいい音が聞こえて来る、俺があのスピードで切ってたら赤い料理が完成しそうだな。

隣の麗奈は何をして良いのか分からないようで静香の後ろで静香の後ろで静香の手の動きを真似て、エアー包丁をしているようだ。

その間に切り終えたのか、フライパンを取り出し、油を敷いて点火して切った物をフライパンに入れて炒めていく。


「麗奈さん卵割ってください」

フライパンを振る手を止めた静香が冷蔵庫から卵を取り出して麗奈に手渡すと、それを受け取った麗奈は一点の迷いもなく、空高く手を振り上げ。



ゴシャ!キッチンの作業台に叩きつけた。

なるほど、卵を割ったことすらないとそうなるのか。


俺の位置からはキッチンカウンターを挟んでいる為、手元までは見えないが、キッチンを汚してしまい、放心状態の麗奈を見ると作業台上の惨状はおおよそ見当がつく。

「麗奈さんは悪くありません、割り方を教えなかった私の所為です」


一旦火を止めた静香がまずは作業台の上を掃除して、それから子供に教えるように麗奈の手を取って一個割って見せる。


「卵はこうして優しくトントンして割るんです」

正しい割り方を静香から教えて貰い、満足気にコクコクと頷く麗奈。

こうして見ていると2人とも美人だし、姉妹みたいだな、年齢は逆だが。

ふむ、静香も養子に迎えるのもありか?


ただ静香は俺の義姉になるつもり?なので娘にした場合、姉ちゃんが義娘になるな、あべこべだ、ようわからん。


「菜箸でこうクルクルと掻き混ぜるように混ぜてください」

今度は手本を見せてからボウルと菜箸を渡し、麗奈に新たな仕事を与え、また炒める作業に戻った。


麗奈が卵を混ぜ終わり、静香にボウルを見せる。

「いいですね、そしたらご飯を入れてっと。よく絡むように混ぜます。」

実に手際よくボウルにご飯を入れ、卵と混ぜるとそれをフライパンに入れた。

ここでやっとチャーハンを作っている事に気がついた。



ジュージューと米を炒める音と焼き上がりを待つ時間が経つたびに増して漂ってくるチャーハンの匂いが俺の食欲をくすぐり、唾液が勝手に溢れて飲む作業が止まらない。

火の近くは危ないので静香の後ろで少し離れて見ている麗奈の口の端からも、涎が垂れているのが窺える。


「できました、レタスチャーハンです、これなら悠太くんもスプーンで食べられる」

片手の使えない俺を気遣ってのチャーハン……何で優しいんだ!


皿に取り分けられた料理がお盆に乗せられ、目の前に運ばれた。

静香特製レタスチャーハンをまじまじと見ると、湯気が立っていて、ニンニクのほのかな香りが鼻腔をくすぐり、脳が早く食べさせろと命令を下してくる。

「ありがとう静香、すっげぇ美味そうだ」

隣に戻ってきた麗奈も同感なようでコクコクと頷き、まだかまだかとスプーンを構えて、ペットで言う待ての状態だ。

「冷めないうちに召し上がれ」

「いただきます」

「ぃぁ……す!」


料理長の許しが出たので早速チャーハンを一口、口に運ぶ、美味い!ただただ美味い!俺のボキャブラリーのなさが悔やまれるが何物にも形容しがたい美味さだ。

スプーンを持つ手が止まらない。

あっという間に自分の分を食べ尽くしてしまった。


普段であれば麗奈もスマホで『いただきます』と見せてから食べ始めるのだが、静香の作った料理の前では、声を出していただきますと言ってしまうほどだ。

それほど、このレタスチャーハンの魔力はやばい、いつもなら出された量で満足できるのにまだ食いたい。


「足りなかった?私の半分食べる?」


「ありがとう大丈夫だ、めっちゃ美味かったよ」

すぐに食べ終わってしまった俺に分けてくれようとする静香……これが涼夏相手なら奪い取ってでも食べるけど、親しき中にも礼儀あり、友達の静香に意地汚いところをお見せするのはどうかと思う。


「そう、なら良かった」

この料理スキルは普通に生きてきて身につく物なのか?天性の才能なのか、努力なのか気になる。


「静香の料理スキルすごいな、俺が今まで食べてきた料理の中で一二を争うレベルだよ」

蓮さん、雪兄、静香で同率一位なので、本当の1番は決められないが、片や長年料理をしてきた主婦、もう片方は飲食店の店主……そこに一塊の女子高生が並ぶのだ、本当にすごい。

「そう言ってもらえて嬉しい。私は将来料理人になりたくて練習してる」

端的に話す静香の目はとても嬉しそうだ。

「料理人を目指すようになったきっかけとかあるのか?」

「それを話すと長くなるけどいい?」

「時間なら死ぬ程あるから食べ終わったら静香さえ良ければ聞かせてくれ」

食事を中断させたまま話して貰うのはマナー的に良くない。

ご飯は黙って食え、姉ちゃんの教えだ。

「じゃあ食べ終わったらね」

黙って食事を再開する静香を横目にふと麗奈に目を向けると小さなお口いっぱいにチャーハンを頬張ってもぐもぐと咀嚼している、ハムスターみたいで癒されるな。

しかし病院食を一緒に食べてた時にはここまでガツガツと食べることは無かったから、

ここで麗奈の舌を肥えさせて、君の料理は美味しくないね、なんて言われるような事にならない事を願おう。俺が死ぬ。


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