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「近所迷惑の極みじゃね?」
麗奈も同じことを考えたのだろう。すぐにブランコを止めた。
「きっと使われてなかったんだね。あれから四年も経ってるのに」
子供を狙った通り魔の犯行って世間的に報道されれば、そんな場所で子供を遊ばせるのは不安だ。
「そのうち無くなったりすんのかな」
「このまま使われなければ、そのうち」
取り壊されて新しい家が建つ、最近じゃよくある話だ。
単純だな、俺も。忌むべき嫌な場所なはずなのに、思い出を作られたお陰で、ちょっぴり惜しい気がしてきた。
「お姉さんはね。ここが嫌いで、ここが好き」
同意見。出会いの場所だから。
「俺も、お前に塗り替えられちまったよ」
「これからも、君の嫌な記憶は、お姉さんが塗り替えるよ」
頼りになるお姉さんだこと。
「眠れそう?」
「そうだな。少し眠たくなってきたかも」
「お姉さんのおかげだね」
「おう。なんつーか、大分荒療治だった」
「大丈夫?もう一回、ちゅーする?」
歯磨き粉の味と、嗅ぎなれた匂いを思い出して、頬をかく。
「むちゃくちゃしやがって」
「悠太も、お姉さんの体を思いっきり締め付けた」
「安心しただろ?」
「した。心までドロドロに溶け合ってる気がしたね」
「なんか表現がエロい。俺じゃなきゃ理性のタガが外れてるぞ」
「お姉さんは君がセクシー過ぎて常にタガが外れてる」
「違いねえ」
ブランコからひょいと立ち上がり、麗奈に振り向く。
「これは、なんだその、いつもありがとうって言うか。少しだけ麗奈の言ってたことに興味を持ったっつーか。まあ、そのあれだ」
充分な言い訳をしつつ、麗奈の肩を抱く。
「急にどしたの?」
「ちょっぴり、意趣返しだ」
俺がした予想外の行動に、麗奈の目が見開く。
俺は、麗奈と、大人のキスをした。
自分からは大胆な癖に、いざ行動に移されると乙女になる麗奈は、めっちゃ可愛かった。
――――――
家に帰ってきて、一日の疲れと服の中に入り込んだ砂を洗い流して、湯船に浸かっている。
「けだもの」
後ろから声が聞こえる。一人で入ろうとしたのに、水着で突入してきた麗奈の不満そうな声。
「お前が望んだことの半分にも満たねえだろ」
『えっちなことしよ』って誘ってきたくせに。
「覚悟ができてない」
タイミング的にもバッチリだし、前置きもした。なんの問題もねえ。
「そりゃあ回りくどかったかもしれねえけど俺は前置きしたぞ」
「まずは優しいキスからでしょ。いきなり舌を絡められたら、びっくりする」
「めっちゃ可愛かったぞ」
「………………君はずるいね」
ズルいで結構だ。
騙し討ちじゃないと、ずっと麗奈にペースを握られるんだから、たまにはこれくらいの仕返しも許されていい。
これにて五話終了でございます。
私的には完結で良いくらい力を入れて書いた笑笑
どうだった?