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俺の軽口に涼夏が続いた。立花先生は茫然自失で口をあんぐりあけて、項垂れている。
「お前は腹が減っただけだろ。小笠原先生、俺たちの担任を任せていいすか?俺は帰って飯食う!」
立花先生への説明責任を果たすつもりはない。
それを含めて、小笠原先生と話をして欲しい。
つまるところ丸投げ。俺にできることはきっかけを作ること、そっから恋愛に発展するかは当人たち次第。
だって俺も流石に腹減った。帰ったら静華の飯が待ってんだから早く帰りてぇ。
「無責任な天使たちね。ふふっ」
「新たな恋のお届けって、すぐに切り替えられるわけ……ないじゃないか」
それほど長田くるみを好きになっちまってたんだな。
ちょろすぎだろ、こいつ。まあちょろすぎる先生だからこそ、すぐに元気になる方法は分かる。
「おうおう先生よぉ、こんな美女が優しく話を聞いてくれるって言ってんだ。その辺の店行ったってこんな透明感のある美人は中々いねえぜ?そんなシケたツラすんなよ」
三下語録で詰め寄ると、立花先生と目が合った。
一瞬ニヤけたぞ、この野郎。
「……春日、何から何まですまんな。小笠原先生、この後お食事でもどうですか?」
早い話、先生も男だってことだ。美人にはめっぽうよえー。
「お断りします」
「……春日ぁ」
泣くな縋り付くような目で見てくんな気色わりぃ。
でも小笠原先生もなんで断った。
「勘違いしないでね。お食事なんて気分じゃないから……ゆっくり出来る個室の居酒屋で、飲み直しましょ」
「小笠原先生!」
小悪魔スマイルを披露した小笠原先生を感動的な目で見つめる立花先生。
なんか知らんが、小笠原先生の頬がうっすら赤くなった。
出来るならそのままお持ち帰って頂いて構いませんので、小笠原先生に対して不始末があれば、俺が責任を持ちますから幸せに砕け散ってください。
「まみこ……って呼んでくれるかしら」
「まみこさん!」
「なぁに?まさきくん」
まだ俺たちが居るんだからイチャイチャすんじゃねえよ。
「はぁ、けえろーぜ。たりぃわ」
二人に背を向けて、涼夏と麗奈に言った。
俺の顔はきっと、げっそりしてる。
「そんなこと言ってー、作戦が上手くいって嬉しい癖にっ」
『まるで軍師だったね(*´艸`)』
「まあな。失敗は取り返せたんじゃね?取り敢えず」
「あなたたち、今日はありがとう!」
小笠原先生に呼び止められ、振り返る。
先生は美貌をフル活用して、満面の笑みを咲かせていた。
この笑顔を見れただけでも良しとするか。
――――――
うちのリビング。蓮さんと涼夏はさっき帰って、麗奈と姉ちゃんは風呂に行った。
だからここには、俺と静華の二人。
「良かったのか?姉ちゃんと風呂入るチャンスだっただろ」
「良いのよ。理性が止まらなくなっちゃうから」
それはまあ、一緒に入らないで頂いて正解ですね。
静華が言った。今日は遅いから泊まらせることにした。
「上手くいってよかったわ」
「まあな。ぶっつけ本番でミスるわけにもいかねえだろ」
マグカップに入ったコーヒーをくゆらせながら答えた。
「春日くんのことだから心配してなかったけどね」
「お前の俺に対する信頼はなんだよ」
こいつは麗奈と違う方向にクールだから考えてることがてんでわからん。
「最初に助けてもらった時のインパクトが大きいから、なんだってできちゃう気がするわね」
「人の気持ちの部分はどうにもならねえよ」
「ふふ、受け売り?」
「お前のな。俺が一番分かってるはずなのに、見逃してたわ」
もう他人の恋愛的なものには首を突っ込まない。絶対に。
「吸収が早いのね」
「成長期だからな」
「体は成長しないでね。今がベストだから」
「お前まで、勘弁してくれよ」
いつかは身長百七十超えるんだから。今に見てろよ。
「これ以上お姉様に似ちゃったら、理性が崩壊しちゃうじゃない」
「海にわりいから成長するのやめとくわ」
「海のことは男として凄く愛してる。顔も、声も、性格も。でも百合は別腹でしょ」
「俺を百合の括りに入れないでくれよ。つーか、百合でも浮気はすんな。姉ちゃんは、お前にはくれてやんねえから」
「あら残念、じゃあせめて春日くんとお姉様で濃厚な百合を」
「しねえよ!」
「死ねよだなんて暴言……ひどい。ぐすっ」
「そういうのいいから」
女性の涙には騙されない。そう。女の涙は武器だって、姉ちゃんの教えに書いてあった。
「あ、春日くん相当疲れてるみたいだから、春日くんは今日麗奈さんと寝なさい。お姉様は私がベッドに誘うわ」
「……気を使わせて悪いな」
「半分以上私の欲望だから気にしないで」
「不安しかない」
夜はふけていく。
今日は怒涛の三頁更新だよ!
立花先生と小笠原先生が幸せになれるといいな