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涼夏から送られてきた位置情報で、立花先生がいる場所へと向かう。
次の場所は、まあ、大人の男女が二人で入る休憩所だった。
「こんなところ、知り合いにでも見つかったらやべえな」
思い当たる知り合いなんて数人しかいないけど。
『堂々としていればいい。悪いことはしてないから大丈夫』
さっき誘ってきたくせに、よくもまあそんなことが言えるぜ。
「まあな、つーかさ。お前もなんかあったんじゃねえの」
どことなく、そんな気がした。
『なんのこと?』
「パッと見いつも通りなんだけどさ。なんか焦ってるっつーか」
俺の知ってる麗奈は、体を好きにしていいなんて言わない。俺を回復させる特効薬だったとしても、もっと大事にすると思う。
キスだってそうだ。乙女心がわかんねー俺に激昂してキスしたのももう1ヶ月も前だ。
あれ以来してないのに、今日はなぜだかサービスが多い。
あくまで憶測だが、こいつも疲れてるんじゃねえか?
『鋭いね』
「言えることか?無理にとは言わねえけど」
話すまでずっと甘やかすけど。
『君との間に隠し事なんてない』
麗奈は真剣な表情で理路整然と言い放った。
「タイミングを伺ってたのか」
『うん』
外ではできないような話ってことだよな。
「わかった、でも焦らなくていいんだぞ。ほら、俺はお前のこと……好きだから」
『お姉さんが焦ってる?なんのこと?』
「いきなりエッチなことをどうとかって」
『それはお姉さんがしたいだけ(/ω\*)』
本当の本当に頭の中が桃色なだけかよ。
何が『俺の知ってる麗奈はそんなこと言わない』だ。口にしなくてよかった。
呆れと『求めてくれる嬉しさ』的なやつがひしひしと胸の奥から湧いてくる。
涼夏と小笠原先生を発見した。
遠巻きに、少しずつ近づいていく。
小笠原先生が、女性の肩を掴んで口論を始めたのが見え、物陰に隠れた。
美女二人が、イケメンを挟んで口論、しかもラブホの前ときた。野次馬がチラホラと湧き始めてる。
「はあー」
大きくため息をつく。
ちくしょう、本人の口から美人局のことを語らせてからでも遅くねえのに。
立花先生を傷付けさせないための先走りか。なら小笠原先生を責めることはできねえな。
「私が先に好きだったのに後から出てきて彼を騙そうとするなんて!最低よ!!!」
小笠原先生が綺麗な顔を鬼の形相に歪めて相手に詰め寄る。
美人はキレてても美人だな。
なんて事を思いつつ、足を止める。
「……騙してないですけど、急に怒鳴りつけてきて、なんですか」
「騙してるのでしょ!美人局なんてして!恥を知りなさい!」
「こんな大衆の面前で怒鳴りつけて、もし私が何もしてなかったら、名誉毀損に当たると思いますけど」
「名誉毀損上等よ!彼を守るためだもの!」
「まあまあ」と立花先生がイケメン面を引き攣らせて、宥めすかすも、ヒートアップした二人にはなんのリラックス効果もない。
「あぁ、真咲くんのことが好きなんですね」
女性は立花先生の腕に絡みつき、小笠原先生を煽る。
「ぐっ。なっ」
先生の足が半歩下がり、口篭った。
だから大人しく待ってりゃよかったのに。
相手は彼女に一番近い女性、この状況じゃ小笠原先生が悪く見られちまう。
「あは、ごめんなさい。私たち今日から付き合うので」
女性が立花先生の手を取り、にこっと笑った。
どちらが上か教えてやったと言いたげに。
今からその顔が恐怖と敗北に染まるのだ。
くつくつと、腹の底から湧いて出そうになる笑いを押さえ付けて、手に持ったスマホを見つめる。
スマホって便利だけど、盗まれたり、落としたりしたら大変だよなぁ。
なんたってこの薄い一枚の板に個人情報が全部詰まってんだから。
「終わらせるか」
麗奈が頷く。
最近のラインのやり取りから、彼女のアカウントに当たりをつけておいた。
そのアカウントに音声通話をかける。
「だからね。真咲くんはあなたとは……こんな時に電話、誰かしら」
女性が先生に引導を渡してやろうと、口上を並べている最中――カバンから着信音が鳴り響いた。
「ビンゴだな」
カバンからスマホを取り出して名前を確かめる。
「少し待っててね、真咲くん」
女性は勝ちを確信した上で、その場を離れる余裕を見せた。
先生達から離れ、俺たちを横切り、スマホを耳に当てた。
同時に俺が持ってるスマホも通話状態に。
『あのさ、今いい所なんだから邪魔しないでよ。見てるんでしょ?それとも何かあの女の心を折るような言葉でも思いついたの?』
根性まで腐ってやがる。
電話越しでも性格の悪さが滲み出る口臭が漂ってくるぜ。
ああ、醜悪醜悪。
『何黙ってるのよ。かけてきたのはそっちでしょ?間違いなら切るけど』
焦らなくてもじっくり調理してやんよ。
「終わりだな」
まずは一言だけ告げる。
『はあ?拓也じゃないの?あんた誰!?』
お前のような醜悪な性格の女性なら猫被るよりも、それくらい荒い口調の方が似合ってるぜ。
「お前終わりだよ」
念を押すようにもう一度。
『……子供の声、イタズラかしら?ぼく?その携帯の持ち主は?』
「お前を地獄に送る死神の声だ、魂に刻み込め。もうすぐお前も連れていく」
『何を訳の分からない事を。あんたいったい何者なの?』
「俺かぁ?」
喋ると同時に、物陰からゆるりと女性の後ろに姿を現す。
「後ろを見てみな」
女性が振り返る。
俺は月の光を背に、ニタニタと不気味に見える笑顔を作り、女性を見上げる。
スマホを高く持って、通話終了ボタンを押す。ヒラヒラとふってスマホを女性に見せつける。
「俺に目をつけられた時点で、終わったんだよ。萩原拓也も、長田くるみ。あんたもだ」
さっきのやつと、長田くるみ、女性の名前をフルネームで呼んだ。
「……ど、どこで私の名前を」
「俺は死神だからな。名前と寿命くらいはわかるぜ。後は住んでるところくらいか」
「あんたのような子供が死神だなんて笑わせないでよ」
「ふっはは、長田くるみ!お前の目には俺がどう映る!綺麗だろ?美少年?美少女?死神ってのは人の寿命吸って幼くなるんだよ。丁度さっき活きのいい魂を吸って若返ったところなんだ!」
麗奈さんに何があったのか(; ・`д・´)ゴクリンコ