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あれから1日経って現在時刻は午前11時、今頃学校で勉学に励んでいるであろう幼馴染達とは違い、俺はリビングのソファーに腰掛けて、見てもいないテレビをつけ、隣には麗奈が座っていて、静香は2階で勉強をしている。

平日の昼前なのでろくな番組はやってなく、偉そうなおっさん達が集まって、やれ政治はどうだの、若者がどうだの言い合っているのをBGMに、麗奈の練習とやらに付き合っている。


スネ毛全剃りの件は夜中に枕を持って半べその麗奈と一度帰宅して蓮さんからキツくお灸を据えられ、同じく半べその涼夏に謝罪され、二度とやらない事を条件に許してやった。

身内なら、心から反省していたら寛大な心を持って許すべし。これも姉ちゃんの教えの一つだ。

決してパジャマ姿で半べそをかく2人が可愛かったとかそういう理由では無い。決して。


『声、出ないね』

姉ちゃん達が家を出発するのを寝ぼけ眼で見送り、そのまま怠惰の二度寝と言う愚行に移ろうとした俺は『付き合って』という文字を麗奈から見せられ、一瞬で眠気がすっ飛んでしまい。

天変地異の前触れかと死ぬ程動揺したが続けて見せられた『君と声を出して話したいから練習』と言う麗奈の健気な文字に何とも言えない複雑な気持ちを抱き、今に至る。


「失声症ってトラウマとかストレスからくるもの何だよな」

『うん、四年前の事件から声出なくなった( ̄◇ ̄;)』

「やっぱ根本的な不安やトラウマを取り除かないと駄目なのかな……あーネットには発声練習も良いって書いてあるけど信憑性はわからんな」

『君の隣にいると安心するから行けると思う(*´ω`*)ダメ元で発声練習も続けていこう』


「そうだな!俺もその、麗奈の声を聞けたら……嬉しい、と思う」

恥ずかしくなってしまい途切れ途切れだ。

するといつもの無表情がゆっくりとしたスピードで俺の耳元へと迫ってくる。

「…………ぁ〜」

耳に掛かる麗奈の吐息がくすぐったく、とても小さくて掠れた声だが、ヒーリングボイス?ウィスパーボイス?と言えば良いのだろうか、可愛い。

そして離れていく麗奈の無表情の顔は、ほんのり桜色に染まっている。


『どう?』


「ヒーリングボイスって言ったら良いのか、とても癒されるな」

俺の言葉によほど嬉しかったのか、涼夏や俺に可愛いと持て囃され、そのポーズが気に入ったのか人差し指で不恰好な笑顔を作ってくれたので、俺も手を伸ばし麗奈の頭を撫でてやる。

『笑顔の練習』


「声は癒されるし、笑顔は可愛いなんて麗奈ちゃんは最強だな」


『君はたらしだね、涼夏ちゃんが苦労するのもわかる』


何を言うか、父親気分で娘に接しているだけだ、誰彼構わずこんな事は言わない。


「麗奈以外には言わないよ」

父親気分の時しか言わないので間違った事は言っていない。

頭を撫でる手は止めずに麗奈の髪の感触を楽しんでいると、ゆったりとした調子で麗奈が俺の膝に頭を乗せ、くつろぎ始めた。

『パパと娘の距離感なら良いでしょ?』

麗奈も亡くなった父親の代わりを俺に求めていたりするのかな。悪い気はしない。


「ああ、あまり根詰めて喉を悪くしてもいけないからこうしてまったりしていよう」


俺自身、こうして麗奈と過ごす時間に安心感を覚えている。

学校が始まってしまったら一緒に過ごす時間も減ってしまうんだろうな、と柄にもなく少し寂しく思う。


『こうやって君といると学校始まるのが少し嫌になるね』

どうやら麗奈も同じことを思ってくれたようで胸の奥が暖かくなる。

「そうだな、でも俺たちには約束があるだろ?」


お互いのトラウマが治るまで、俺は麗奈を笑顔に、麗奈は俺と一緒にいる、出会って日は浅くても俺たちの絆は、お互いを思いやる約束という鎖によって、硬く結ばれている。


『うん、ずっと一緒にいるよ』


涼夏と俺、麗奈と俺の関係は傍から見たら依存してるように、束縛しあってるように見えるかもしれない。

でも今はそれでいい、みんなが元気になって、自立して歩き出せるようになるまではそれでいいんだ。

ガチャ、扉の開く音が後ろで聞こえた。

「お熱いとこごめんね、お昼どうする?」

学校の勉強を終えた静香がリビングに入ってきて、ソファーの背もたれに肘をつき、こちらを見下ろしている。


「俺もまだ、腕を使えないからな……出前でも取るか?」

出前を頼む所はもちろん雪兄だ、あの店は雪兄が1人でやっている為本当は出前のサービスなどはしていないが、俺が頼めば持ってきてくれるだろ。

「それなら私に作らせて」

「静香は料理できるのか、じゃあ悪いけどお願いしても良いか?」

料理と聞いてガバッと麗奈が起き上がる。作れるように練習したいって言ってたもんな。


『私も手伝おうか?初めてだから足引っ張るかもだけど( ̄◇ ̄;)』

「じゃあ一緒に作りましょう、悠太くんは嫌いな物はある?」

『わーい(*゜▽゜*)』

「好き嫌いはするなって姉ちゃんの教えがあるから、俺に嫌いな食べ物はないぜ」


それだけ聞くと静香は麗奈の手を取り、キッチンへと入って行った。ぐふふ

いけない、山本さんウイルスが俺にまで感染している。気をつけなくては。


静香の料理スキルが気になった俺は、キッチンを見渡せるようソファーに横向きに座り直す。これなら2人の作業が何となく見える。





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