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「ああ、話せないお姉さんと、ちょっとヤンチャな妹さんの姉妹愛!猛烈に感動した!ほら、君にこれをあげよう!」


 リーマンのおっさんが、カバンから大きめの袋を取りだして、握らせてきた。


「遠慮はいらない!これでお姉ちゃんを守ってあげるんだよ!」


 リーマンは豪快に笑い、満足気に去っていった。

 嵐のようなやつだった。渡された袋から中身を取り出す。


「おもちゃの弓、ふっ」


 麗奈は顔を緩ませ、吹き出した。


「笑うなよ……お姉ちゃん」


 先端に吸盤がついたおもちゃの弓。なんでこんなおもちゃを持ち歩いてんだよ。あのリーマン。明らか子供用だろ。


 ちくしょう……ムカつく。時間があったら不機嫌全開で追いかけてるところだ。

 見た目でロリって決めつけやがって、俺は見た目以上に獰猛で強いんだぞ。


「先を急ごう、妹ちゃん」


 麗奈の顔が近づいてきて、反射的に目をギュッと閉じた。

 頬に生暖かい息がかかり、柔らかい感触の唇と、「ちゅっ」て生々しいリップ音がした。続けて、ザラザラした舌が頬を小さく撫でた。


「急に何すんだっ!」


 頬を腕で拭う。ヨダレでテカる肌が、なんだか妙に、ドキッとする。いや、ちょっぴりエロいっつーか。

 

「んぁ、しょっぱい」


 麗奈はべっ、と舌を出した。

 あれが、俺の頬を舐めたんだよな。


「あたりめえだろ夏なんだから!何してんだって聞いてんの!」


「我慢できたから、ご褒美」


 おもちゃの弓に矢をセットして引き、放つ。

「いたっ」と麗奈が小さな悲鳴をあげ、おでこに吸盤の矢がくっついた。


「ご褒美あげたのに、心音がよかった?」

 

「ばっかじゃねえのっ……ほら行くぞ」


 矢がくっついたままの麗奈の手を引っ張って歩き出す。あー、顔があっつ!



――――



 見つけた。先生らしき後ろ姿と、隣を歩く女性。


 見間違うはずがねえ。ありゃ美容院でセットした時と同じ髪型だ。

 先生と、女性が居酒屋の暖簾をくぐっていく。


 まずは第一段階をクリア。立花先生を見つけることができた。


 どっと疲れが湧いてきて、俺は居酒屋から少し離れた街路樹に体を預けた。

 

「ナイスだ麗奈。帰ったら撫でてやろう」


 先生を見つけられたのは偶然だった。

 待ち合わせの名所にはいなかった。時間も過ぎていて、そもそも待ち合わせ場所すら知らなかった。


『お姉さんの勘は当たる』

 

 焦る俺に、麗奈は薄い胸を張って自信満々に言った。

 懐疑心でいっぱいの俺の手を引っ張って、麗奈が引き起こした、当てずっぽうの奇跡だ。


「お姉さんにご褒美をくれてもいいよ」


 麗奈が自分の唇に指を当てて言った。


 無視だ、無視。まずは涼夏に連絡して合流だ。


 スマホを取り出し、涼夏に電話をかけた。

 すぐに通話状態になった。


「こちらウルフ零一、居酒屋に入っていくターゲット両名を確認、どうぞ」


 スマホをトランシーバーに見立て、涼夏に語りかけた。

 

『こちらスタービング零一、お腹がすきました。どうぞ』


 めっちゃ腹減ってんじゃん。声も心なしか元気がない。活動限界でも迎えたか?


「終わったら飯食わせてやる。どうぞ」


『数時間先の話では一歩も動けません。もう一押し気の利いた言葉を、どうぞ』


「……ここにきたら俺がいる。どうぞ」


『すぐに向かうので位置情報の共有を願います。どうぞ』


「了解、通話を終了後すぐに送信する。どうぞ」


『承知致しました。監視を続けながら、他勢力が潜んでないか警戒をお願いします。どうぞ』


 涼夏の言う通り、美人局なら女性側の人間が、そこらにいるかもしれない。

 俺たちの尾行がバレたら、長丁場になっちまう、用心するに越したことはない。


「了解した、これで通信を終了する」


 通話を切り、位置情報を共有して、スマホをポケットにしまった。

 トンっと街路樹から背中を離す。

 変なやつがいないか、周囲を警戒して回る。

 

 歩道橋の上、居酒屋の看板の裏、街路樹の影、居酒屋が覗けそうな位置、かつ目立たない場所。いない。

 

 居酒屋から斜め向かいの、最後にいかにもな雰囲気の路地裏をチェック。


「きゃっ!」「みんじゃねえ!」

「うお!わ、わりぃ、邪魔した!」


 カップルが、いたしてた。

 気持ちわりぃ、見たくて見たわけじゃねえのに。

 リーマンと言い、カップルと言い、フラストレーション溜まりまくりだ。

 あのさぁ、金がないのか、そういう趣味なのか知らねえけど、ラブホいけよ。


 毒づき、また街路樹にもたれかかる。このなりで居酒屋には入れねえ。

 出てくるのをここで待つ。


「つーか、小笠原先生もいなくね」


「迷子かもね」


「可能性たけーな。麗奈の勘がなきゃ俺たちも見つかんなかった」


「お姉さんは君の役に立つ」

 

「ほんとにな、助かってるよ。色々と」


 スマホで涼夏に『スタービングゼロワン、新しい任務だ。小笠原女史の捜索をされたし』とラインを書きつつ漏らした。


「君は疲れてる」


「少しな。でも、お前と涼夏がいると癒されるよ」


 素でいられる。いい子ちゃんのふりをしてなくていい。


「無理に、人助けしなくても、いいと思うよ」

 

「俺が疲れるなら……か。そうだな、少し肩肘張りすぎな気もする」


「でも、君は割り切れない」


「だな」


「割り切れたら、お姉さんは君と出会ってなかった、よね」


「どうだろ。別の形で出会ってたかもしれねえよ?春日遺伝子と秋山遺伝子の相性は抜群なんだろ?」


 

 

 

 

ほっぺにチューして頬を舐めるなんて麗奈さん大胆!

どっちも羨ましい笑笑

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