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壁に寄りかかったり四苦八苦しながら用を済ませてトイレを出る。

やはりトイレをする時ってのは一人で落ち着いてするに限るな、介護してくれるのは勿論ありがたい、だが外で待たれたり、ましてや見られたりしていると落ち着かないのだ。

これを期に麗奈にトイレは1人で行けると証明して、トイレくらいは自由にさせて貰おう。


トン、トン

誰かが軽快に階段を降りる音が聞こえる。

『お姉さんと君から愛情を込めてって言ったらお姉ちゃんすっごく美味しいって喜んでた(*゜▽゜*)』

るんるんな気分の麗奈ちゃんだ。

「よかったな、麗奈のおかげだ」

先程のやり取りから、すっかり父親気分で麗奈の頭を撫でる。

『それよりも君、1人でトイレに行ったの?お姉さんはもういらないの?約束は?』

トイレまで一緒にいく約束をした覚えはねえよ、男子校生の連れションでも約束はしない。


「麗奈、俺には麗奈が必要だ、だけどトイレは1人で行けるから、無理に役に立とうとしなくて平気だよ」

さっきのココアの事で分かってきたのだが、きっとトイレの件しかり添い寝の件しかり、麗奈なりに生活の世話をする俺と姉ちゃんの役に立ちたいのだろう。

だから本来ならやりたくないであろうトイレのお世話もしてくれた、しかも男性のだ。


俺は麗奈に嫌なことをさせる為にここに呼んだ訳じゃない。

『えー、君が排泄する時の恥ずかしがる顔が可愛いからしてたのにー(´༎ຶོρ༎ຶོ`)私の生き甲斐奪わないで(;_;)』


どうやら、違った模様……これが生き甲斐とは……とんだ上級の変態だったようだ。入院三日目の時に流した俺の涙を返せ!

「尚更嫌だわ!今日から1人でする!」

フッと照明のスイッチを切った時のように麗奈の大きな瞳から光が消え、ゆらゆらと幽霊のようにヒタヒタ俺に近寄り普段からは想像出来ない握力で俺の肩を掴み、前に垂れた長い髪から片目だけをのぞかせ


声はなく、約束、と口を開き伝えてきた。

逆らったら何されるかわからん。

「…………足が治るまでだからな」

俺がそういうと満足したのか、変態は俺を置いて軽やかな足取りでリビングへと帰っていった。


どうしてくれるんだ、俺の足は恐怖に慄き、ガタガタと震えたまま、麗奈が去った後もいうことを聞いてくれないんだが……

約束はどうした約束は。


麗奈に襲われ、疲弊した俺がリビングに戻ると、麗奈の姿はなく、気絶から復活した涼夏と静香が仲良く座って何かを待っているのか、ウキウキした様子だ。


「麗奈さんの私服姿が見れるなんてレアだねー!」

「うん、お姉様くらい綺麗だから待ち遠しい」


そう言うことか、果たしてどれを着てくるんだろうか。

個人的には俺が選んだショートパンツと組み合わせで選んだニーハイ、シャツを着てくれると個人的にテンション爆上がり間違いなしなんだが。


「悠くんもこれ、着替えてきなよ」

何故これを涼夏が……?

涼夏から麗奈に押し付けたはずの小さい袋を渡される。

もちろん中身は白ワンピ。


「なんでお前がそれを持ってるんだ?」


姉ちゃん以外にこれの所有者が誰であるかは知らないはず、まさか玄関で耳打ちしてたのは…。

「さっき菜月さんから聞いたよ、早く着て見せてよ!」

「金髪俺っ子の白ワンピ……早く」

まるで新しいおもちゃに目を輝かせる子供のような瞳でこちらを見る幼馴染と、その友達。

俺の尊厳は?どこに置いてきたの?


「絶対に着ねえよ!俺は男だ!」


「着ないなら、そうだなーっ口を滑らせそうだなーっ」

こいつは幼馴染だけあって俺の過去を知り尽くしている女だ。

だがこいつが俺の恥ずかしい過去を知っているなら俺もこいつの恥ずかしい過去を知っている。

臆することは無い、正義はこちらにある。

「何かを言いたいなら勝手にしろ、俺は着ないぞ」

断固拒否する姿勢をとる俺に、ふーんと呟くと、ガキ大将のような意地の悪い笑みを浮かべ

「静香、これね、病院で悠くんのおトイr」

「よし、来てくるわ、いやー女装したい気分だったんだ。だからその話はやめろ」

暴発の件を恐らく純真無垢な静香に話そうとするとはこいつは鬼だ、悪魔だ。


「じゃあ悠くん楽しみにしてるね」

ちくしょう、この恨みいつか晴らしてやる。

リビングの奥にある和室へと、歩を進め……ない。

麗奈が廊下を通らなかったって事は和室で着替えているからだ。

後ろを振り返ると案の定2人の悪魔がバレたかっと言いたげな表情でこちらを見ていた。洗面所いくか。



「はぁ……」

洗面所に入り鍵を閉め、ため息を一つ。



下はスカートになってるとは言え丈は膝まで、店ではズボンの上から着用していた為女性店員さんの心に傷を負わせる事は無かったが、今なら家だ、手入れなしですね毛だらけの生足を存分に晒せる!


こうなったら生半可な気持ちで二度と強要されないように地獄を見せてやる。



下着以外の服の一切を脱ぎ捨て、白ワンピを装着!見よ!この雄々しく生え揃ったムダ毛だらけの漢らしい腕と足を……ない?

何故だ……?筋肉も無く、ツルッと一切のムダ毛の無い足は女の子そのもの。

何故だ!!女性扱いされまくってホルモンのバランスが崩れてしまったのか!?これが俗に言うメス男子化なのか!?

男を証明できるものが息子だけになってしまった……、息子よ、お前まで縮んでしまったり、起立しなくなったりしないよな……?


「悠くん!?」「悠太くん!?」

男らしさのかけらも失ってしまい、この先の息子の心配に悲しい気持ちでトボトボとリビングに戻ると今にも泣き出してしまいそうな俺を見た3人が何事かと駆け寄ってきた。

「見れくれ……俺は……女の子になってしまった……」

ワンピースの裾を上げ、スネ毛が綺麗さっぱり無くなってしまった綺麗な足を3人に見せると、麗奈と涼夏がピクリと反応した。

「俺はよぉ……髭も生えねえ……これでしか自分が男だって証明できなかったんだ……それすらも無くなっちまった…………」

さらにピクピクッと反応する2人。

「悠太くん可哀想、でも似合ってるよ?」

静香のフォローにうんうんと、頷く2人、犯人はこいつらか……。

「俺が女の子だったら喜ぶけど……静香ぁ、俺、男の子なんだぜ?もう自信も無くなって外も出たく無いぜ……もし犯人が居るなら……俺は許せない……」


キッと目をキツくし、殺気を放つと涼夏がアタフタとし始め、麗奈が震える手でスマホの操作を始めた。


「悠……くん実は……剃ったの私たちです…………」


『悪ノリというか何というか……』


この日1日中部屋に引きこもり2人と口を聞く事は無かったのは言うまでもない。


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