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「なぁに?」

「あれは、その……なんていうか、涼夏と結婚して、麗奈を養子に取ったら最高だな、なんて俺の妄想が引き起こした奇行なんだ!ごめん!」

これ以上涼夏の期待に満ちた目を見ていると心の罪悪感からか言いにくくなってしまうので、一気に言い切り頭を下げた。

涼夏がどんな表情をしているかはわからないがきっと悲しみに満ちている。

そう思うと先程以上の罪悪感が込み上げてきて胸が張り裂けそうになる。

さあ、俺の顔を思う存分全力で殴ってくれ、覚悟はできている。


「えへへ、それじゃ悠くんは、私と結婚するのは嫌じゃないってことなんだね、えへへ」

聞こえた幼馴染の声は意外な物で拍子抜けてしまい、思わず顔を上げると、涼夏は顔をこれでもかと言うほどニマニマと緩ませ、両手を自分の頬に当てて体をクネらせている。


もう一度言う両手を自分の頬に当てて体をクネらせている。

気付いた時にはすでに遅し、涼夏の肩という支えを失った俺の体は折れた腕を下にして重力にしたがって地面に急降下する。

ヤバい!退院当日に病院に戻ることになる!!


襲い来る痛みに恐怖し、目を閉じる。


がいつまで経っても痛みが俺の体を襲うことはなかった。

それどころか何者かに引っ張られている。


目を開けると、後数センチで地面とキスをしそうだ。

折れてない方の腕を地面につき、助けてくれた人を確認。

息を切らした麗奈が地面スレスレ俺の服を掴んで全力で引っ張り上げようとしている。


「ありがとう麗奈、助かった……」


「ご、ごめんね悠くん、麗奈さん変わりますね!」

麗奈の力では地面と激突しないようにするのが精一杯だった俺の体を涼夏が軽く抱き上げる、所謂お姫様抱っこと言うやつだ……。

「おろせ涼夏!後生だ!」

「悠くんは危ないからこれでいいのです、菜月さん玄関を開けてください!これ運んじゃいますんで!」

「ふふ、本当に仲がいいわねー、でも、そうねハラハラするし、中で静香ちゃんも待ってるから、それそのまま運んじゃってー」

俺は物じゃ無い。俺の必死の抗議を受け入れない幼馴染は姉ちゃんに頼み玄関ドアを開けてもらい中に入った。


「悠太くん、おかえりなさい………………お姫様だった?」

クールな表情を崩し、ニヤニヤとこちらを見る静香が俺を弄ってくる。

元気そうで何よりだ。

「扉一枚挟んで中にいたんだから聞こえてただろ!」

「さあ、どうだろ」


「それじゃあ私は持ち帰った仕事を片付けてくるから、三人ともゆっくりしててー」


姉ちゃん……仕事を持ち帰ってまで俺を迎えに来てくれたのか、悪いことしたな、バスで帰ってくれば良かったかな。後で姉ちゃんの好きなココアでも作って部屋に届けよう。

「姉ちゃん、ありがとう…仕事頑張ってな」

「お姉様……お仕事いつもお疲れ様です」

涼夏にお姫様抱っこされたまま、姉ちゃんを応援する俺はきっと姉ちゃんから見たら間抜けに見えるだろう。

ん?お姉様?


「そうだ、涼夏」

姉ちゃんがごにょごにょっと涼夏に何かを耳打ちして、階段を上がっていったのを、俺達4人は見送る。


静香の視線だけが何故か熱を帯びて見えるのだけは百合好きな俺の気のせいだろう。じゃないと海が報われない。




リビングに入ると俺はソファーに座らされ、両隣に涼夏と麗奈が座り、反対側には静香が1人で座っていて3人でガールズトークを繰り広げている。

窮屈だし3人で話すなら1人反対側いけよ、静香が1人で可哀想だろ



とは言っても俺は今気分が良い久しぶりの我が家だ!!!ここなら金を払わずテレビが見れる!好きな時に飯が食える!部屋の照明だってつけ放題だ!


そんな俺の大歓喜も知らず、3人の話題は麗奈が買ってもらった服の話へ。


「へぇー!悠くんからプレゼントなんて珍しいですね!」

「服のプレゼントなんて、やるね」

『入院中のお世話のお礼にってくれたんだ(о´∀`о)笑顔が出そうだったけど表情筋が動かなくてびっくりしたよ( ;´Д`)』


「なるほど、長年使わないと筋肉が衰えるっていいますし、これからは笑顔の練習ですね!」


『こう?(*゜▽゜*)』

車でやってくれたように不恰好な笑顔を作る麗奈。


「かかかかか!」

壊れたロボットか?気持ちはわかるが……。

「なるほど、悠太くんが涼夏にプロポーズしたのもわかりますね」

「可愛いいいいい!悠くん!私と結婚して麗奈さんを養子に迎え入れて、一生一緒に居てもらおう!」


涼夏も静香も麗奈のこの一生守りたくなるこの笑顔を分かってくれるか……いい幼馴染と友達を持った。


「落ち着け涼夏、俺もそれにやられた」


「なるほど……凄まじい威力だね……ぶひゃー!!」

バタン!涼夏が奇声を上げて昇天した。

倒れる寸前の涼夏が見た物はママ?と首を傾げる麗奈。

感極まって限界を超えたのであろう、静香が気絶した涼夏を抱き上げて自分が座っていたソファーに寝かしてくれた。


そうだ、仕事を頑張ってる姉ちゃんにココアを作ってあげなきゃ

「麗奈、姉ちゃんにココアを差し入れて上げたいんだけど、持っていくの頼んでもいいか?」

『それならお姉さんが作ろうか?(*゜▽゜*)』

「お姉さんには私が作る」


「それが俺が入れたココア以外は飲まないんだよな……なんか知らんがこだわりがあるらしい」


『じゃあ君に分量見てもらってお姉さんがいれるよ(^ー^)私も家族だからお姉ちゃんの好きなココア作れるようになりたい(о´∀`о)』


「ふむ、今回は麗奈さんに譲る」



麗奈の言う事はごもっともだ。

教えてあげたいのは山々なんだけど、俺も適当に淹れてるだけだ。

それでもこの家族の為に何か役に立ちたいと申し出てくれる麗奈を断るのは酷だ、静香も健気な麗奈を見て譲ってくれたようだし。


「よし、じゃあ麗奈にもココアの作り方を覚えてもらおう、キッチンに行くか」

麗奈の肩を借りて立ち上がり、松葉杖をついてキッチンへと移動し、姉ちゃん用のマグカップを戸棚から取り出す。

「まずはそれに牛乳をいれるんだ、毎日欠かさず牛乳を飲んでる姉ちゃんの事だ、冷蔵庫見て見な」

麗奈が冷蔵庫を開け、牛乳を取り出し、キッチンへと置いた。

その間に俺は戸棚からココアの素を出してやる。

「レンジで温めるから、溢れない程度に牛乳を適当入れてレンジにゴーだ、時間は2分だ」



俺の指示通りこなしていく麗奈はあっという間にホットミルクを作り上げた。

「そこにココアの素をスプーン三杯突っ込んで混ぜて完成だ」

子供でも出来るほど簡単な作業に、驚いている様子の麗奈が首を傾げている、そうだよね、特別な事してないもんね。


「強いて言うなら混ぜる時に愛情を込めてやると美味しくなる」


俺がそういうと麗奈は納得したのか手をパチンと合わせ、俺の手を取って一緒にスプーンを握らせた。

ふむ、愛情を込めて美味しくなるなら、2人で混ぜたら美味しさも2倍とな、一理ある。


「麗奈頭いいな、俺には思いつかなかった…一緒に混ぜよう」

くるくるとホットミルクとココアの素をかき混ぜていく、真っ白のキャンバスに茶色が混ざり、甘い匂いが立ち込める。

「よし、完成だ。麗奈早速だがこれを姉ちゃんに持っていってやってくれ」

親指を立て、任せとけと言わんばかりに、マグカップを持ってキッチンを出て行った。


この間僅か5分、静香は俺たちの後ろで黙って真剣にメモを取っていた。

海、恨むならうちの姉を恨め。


麗奈がいない今がチャンスだ。トイレを済ませておこう、トイレくらい1人でできるからな。


「静香、ちょっと席を外すわ」

静香に断りを入れ、自由への一歩を踏み出そうと振り返る。

「トイレ?なら手伝う。お姉様の弟は私の弟、世話をするのも義姉の勤め」

「いや、1人でできるからいい」

「そう」

何を言ってるんだこいつは……俺が居ない間に姉ちゃんと何があった?

麗奈、涼夏、山本さん、もうこれ以上無防備な姿を女性に晒したくないので軽く断ると、ついてくる事は無かったので安心してトイレに向かうのだった。


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