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『琥珀もそうだけど君に出会えて凄く幸せだよ、お姉ちゃんも涼夏ちゃんも蓮さんも雪人さんもみんな優しいし、雪人さんはまだ少し怖いけどε-(´∀`; )』
雪兄と麗奈の邂逅は俺の病室に雪兄が見舞いに来た時だった。
俺と居るとトラウマが和らぐらしい麗奈は珍しく男性の雪兄にも挨拶をしたのだが、空気読めない、デリカシーの無さに定評のある雪兄は初めて会う麗奈にがっつり話しかけまくり、最初は戸惑っていた麗奈だったが、雪兄に少し懐いたのだ。
イケメン料理人だからか?イケメンで料理人だからなのか?
俺をそっちのけで話す2人に、少し…ほんの少し、ミクロよりも小さいレベルだが、何故だか心が痛くなった。
『まだあの時の事気にしてる?ごめんね、大丈夫だよ、お姉さんはずっと君の隣にいるよ?』
思い出し傷心してるのが顔に出ていたのだろう、俺より身長の高い麗奈が覗き込むに俺の顔を見ている。
「ありがとうな、けど気にしてねえよ…付き合っている訳でもねえし」
『そっか(о´∀`о)さっきの話の続きだけどお姉さんは琥珀だけじゃなくて君にもちゃんと感謝してるからね(*゜▽゜*)』
この感謝はきっと、今までの麗奈の話を聞くからに前より生活レベルが格段に上がったからだろう。
いや、卑屈すぎる……麗奈に限って金の為な訳がない。
悪い癖だ、折角感謝の言葉を述べてくれてるんだ、素直に受け取っておこう。
「おう、なんだかんだ麗奈には助けてもらってる…俺も感謝してるぜ」
『約束だからね(*゜▽゜*)ずっと一緒だよ?君に捨てられたら今度こそお姉さん死んじゃうよー!』
「それは困るな!俺は約束を守る男だから安心してくれ、捨てたりなんかしないよ」
約束か……俺達は約束が無かったら成立しない関係だ、麗奈と俺はただ同じ事件に寄って殺められた被害者の家族、ただの他人だ。
約束が果たされたら?麗奈の気が変わったら?麗奈は俺の元を離れてしまうのだろうか。
あー!なんか卑屈になっちゃってダメだな!離れてしまったらなんだ、2週間ずっと側に居てくれたからきっと寂しく思ってしまっているだけだ、気にするな。
「お!姉ちゃん来たな!」
芽生えた感情に蓋をするように頭を振り、前を向くとナイスタイミングだ、姉ちゃんの車が病院の敷地内に入ってきた。
松葉杖を支えに立ち上がり、一歩前へと出ると、気付いて貰えるように姉ちゃんに向けて手を振る。
麗奈も少し遅れて俺の隣に並ぶと、姉ちゃんが車を俺達の前で停車させてくれたので扉を開けて足をぶつけないようにゆっくりと麗奈の支えを借りて後部座席に乗り込む。
「2人とも結構待たせちゃったかな?」
車を走らせながら姉ちゃんが言う。
「麗奈と話してたから待った気はしないよ、迎えに来てくれてありがとう姉ちゃん」
「どう致しまして、麗奈ちゃんも悠太の面倒見てくれてありがとうねー」
姉ちゃんが運転中でスマホを見せる訳にもいかないので、麗奈はバックミラー越しに姉ちゃんと目を合わせて軽く会釈をした。
「姉ちゃん寄って欲しい所があるんだけど」
「どうせ雪人くんのお店でしょー?夜に退院祝いだってうちに来て料理するって言ってたから夜まで我慢だね」
「それはありがたい!病院食は飽きたわ……じゃなくて近くのデパートに行きたいんだ」
「あなたまだ足が悪いのよ?静香ちゃんも家で待ってるし、買う物言ってくれたら私が買ってくるから後にして今は家で休んだら?」
姉ちゃんの言うことはごもっともだ、けど買いたい物は決まっているが具体的に中身が決まっていないので、できれば一緒に行きたい。
「いや、今日行きたいんだ…ワガママ言ってわりい……だめか?」
「そこまで言うんだから余程欲しいものがあるんでしょ?静香ちゃんには涼夏がついてるし、いいわよ、行きましょ」
「ありがとう姉ちゃん」
姉ちゃんが家に向かっていた車をデパートに向け走らせる。
『リンゴなら足が治ってからでも大丈夫だよ?』
「それも買うけど、他にも買いたいものがあるんだ、麗奈も疲れてるだろうけどもう少し付き合ってくれ」
俺が言うとこくりと頷いて、窓の外の景色を眺め始めた。
「姉ちゃん、静香の様子はどう?」
本人とも連絡は取っていて、普通にしているのは知っているが強がりの可能性もあるので夜抱き枕にして寝ているであろう姉ちゃんに聞いてみることした。
「んー、日中は普通なんだけどねー寝てる時たまに寝言でやめてって呟いてるわね、うなされてるわよ……そんな時は抱きしめてあげると収まるけどねー」
ビンゴか、ヤクザの組事務所で起きた件か…はたまた両親の件か…どちらにせよ両親の方は早めに片付ける必要があるな。
いまだ、静香の両親が家に帰っている様子は無いので今すぐどうこうはできない。
海には、両親が家に帰り次第俺に連絡を入れるように手筈を整えてある。
「そのまま姉ちゃんは静香と一緒に寝てやってくれると助かる」
姉ちゃんも誰かと一緒じゃないと眠れないのでwin-winな関係だ。
それを眺められたら百合好きな俺としてはwin-win-winだが…麗奈はさておき流石に静香と同じ空間で寝るのは駄目だ。
涼夏に殺されるし、海を裏切ることになる。
「そうね、静香ちゃんの両親の件が片付くまでは静香ちゃんを抱き枕にさせて貰うわねー、でも悠太寂しく無い?」
寂しい訳あるか、俺は一人で寝られない程子供でも無ければ、そんなトラウマを……抱えていないことは無いが、一人で寝られる。
眼前に麗奈のスマホが差し込まれる。
『お姉さんが一緒に寝るから寂しく無いよ(о´∀`о)』
病院で毎晩俺のベッドに忍び込んできていたが……違う、そうじゃない。出来ればお前も姉ちゃんと同じ空間で寝てください。
「そっか!悠太には麗奈ちゃんがいるもんね!むしろお姉ちゃんはお邪魔かー」
『約束だもんね(о´∀`о)誰がなんと言おうと一緒に寝るよ』
こいつの約束の幅が広すぎて、そろそろ風呂にも侵入してきそうだな…と思う今日この頃です。
「まあ、あなたはまだ高校生なんだから、何でも私や大人の人達を頼りなさいね」
今までのおふざけムードの空気を破り急に眉を細め、真剣な声で姉ちゃんが発した。
「その事なら大丈夫だ、俺はもう一人でやるのはやめたんだ、これからは無茶な事はチームでやる所存です」
「わかってるならいいわ、ところでチームってなに?」
ホッと安心した様子の姉ちゃんが胸を撫で下ろす、ハンドルから手を離さないで!
「もちろん涼夏と麗奈、たまに琥珀さん」
「全員子供じゃない。でも琥珀ちゃんて確か剣道で唯一葉月ちゃんに勝った子よね」
麗奈に忘れていた記憶を思い出させてもらった後日本人にも確認したが、本当だった。
本人は覚えていた様子だったが何故教えてくれなかったのか聞いて見たところ。
姉さんの事はトラウマがあるんだろ?なら私から打ち明けてトラウマスイッチを押して、無理して思い出させるよりは忘れたままでいてくれていい、私は少年という葉月さんの忘れ形見を守れればそれでいいんだ。
と言う生前の葉月姉ちゃんによく似たイケメンなセリフを遠くを見つめるイケメンな表情と共に頂いた。
俺が女の子だったらその場で惚れていただろう、いや琥珀さんは女性で俺は男だから惚れてもあながち間違っていないのか?でも俺は守られるより守りたいからな、あべこべだ。
「俺は忘れてたけど姉ちゃんは名前も覚えてたのか」
「病室の近くですれ違った時にあれ?って思ったけどその時は話さなかったのよ……名前を聞いて確信したわ。葉月ちゃんにすごく憧れてたものね、よく覚えているわよ」
そうそう、ことの発端はわからないけど、葉月姉ちゃんへの憧れで同じ習い事を始めたんだよな。だからか、今でも葉月姉ちゃんと同じ雰囲気を感じる時がある。
「今度うちに呼ぼうか?麗奈の友達だから麗奈も喜ぶ」
隣に視線を移すと麗奈がコクコクと頷いている。
「そうね、みんな呼んで思い出を語り合うのも良いかもしれないわね」
お互いが関わった事がないかもしれないが、琥珀さんの他に雪兄や蓮さんや涼夏達を呼んで葉月姉ちゃんを偲ぶ会もありだな。
「そのうちやろうな」
絶対雪兄と俺が思い出し号泣するのが目に浮かぶけどな。