表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/667

56頁


カッ……カッ……カッ、松葉杖を着きながら病院の正面玄関を抜け、俺は久しぶりの娑婆の空気を肺いっぱいに吸い込み、深呼吸をする。


病室も山本沙織さんのおかげでランクの高い良い個室を用意してもらったがやはり病院は病院、独特の匂いに俺は辟易していた。

なので、俺の今の気持ちは清々しいことこの上ない。

何を隠そう今日は俺の退院日だ、尿瓶生活とはおさらばだ!グッバイ麗奈の介護生活!


とは言っても松葉杖で歩く事を許可されてからは嬉々として、自分でトイレに行っていたのだが…片腕が折れているため、自分でズボンを下ろす事が出来なかった。


結局は麗奈が片時も離れずトイレまでついてきて、ズボンを下ろしてもらい、またズボンをあげてもらう介護生活な事には変わりはなかった。

何度か看護師さんにお願いするように何回か話したが頑として俺の世話を降りる事はなかった。


もちろんまだギブスは取れていない、家に帰るにあたって病院側にももう少し入院しておいたほうが良い、と言われたが俺には帰らないといけない理由があった。


今も隣に居て片時も離れず支えてくれた麗奈の出席日数と家で匿っている静香の件だ。

どちらも早くする事に越した事はない。

いくら麗奈が成績優秀だとしてもだ、腕と足のギブスが取れるまで入院していたとしたら確実に麗奈が留年をして、来年は同じ学年になってしまうだろう。


静香もそうだ、早く解決してやらないと、留年する事になってしまう。


ああ?俺の出席日数?どこかの山本さんが圧力をかけてくれたみたいで、免除されてるらしいよ。


ただ、帰る事に憂いもある…………トイレもそうだが入浴だ。

隣にいる麗奈と幼馴染の涼夏が協力して面倒を見る気でいる。

高校生男子諸君に恨まれそうなほど恵まれた環境だが……生殺しなんだ。

寝ても覚めても隣に女性がいる。けど、致してはいけない。

目の前にご馳走を置かれたままお預けを食らう気持ちがわかるか?入院初期の俺は確かに、恥ずかしかったり、屈辱感を感じて嫌がっていた。

だけど日が経つにつれて性欲が薄く、それ程致した事のない俺の気持ちはみるみるうちに変わって行った。

つまり、溜まっているということだ。


そんな頭の悪いことを考えながら無言で歩いていると、病院のロータリーに着いた、ここで姉ちゃんと待ち合わせをしている。

仕事を抜けて来てくれるみたいなので、ここで少しの間待機だ。


「麗奈ちゃんここで待ってたら姉ちゃんが迎えにきてくれるからな!」

ロータリー近くのベンチに座り同じく隣に座った麗奈に語りかけると、麗奈がポケットからスマホを取り出しいつも通り文字を打ち込む。


『今日はご機嫌だね(o^^o)』

勿論だ、俺は今自由を噛み締めている。

「おう!一刻も早く雪兄の店に行って飯が食いてえな!」

バランスを考えて作られた病院食と言うものは失礼だが塩分が控えめで味気ないものばかりだ。

一度麗奈に売店で何か買ってきて貰えるようにお願いしたことがあるのだが……せっかく可愛いのに太ったらいけないからダメ、っと一蹴されてしまった。

それどころか、お見舞いに来てくれた人が持ってきてくれたお菓子ですら、食べる事はもとい触れることすら許されず、涼夏によって持ち帰られた。

『まだそんなに動けないんだから、あんまり食べ過ぎたらダメだよ٩( ᐛ )و』


なに……?せっかく退院したのに今日くらい好き放題食べて良いんじゃないのか……?

念押しをするように麗奈が指で×マークを作っている。


だ、だが……塩分控えめ味薄めより何倍もマシだ!……その分量を減らされたりしないよな……?


「気をつけるよ、麗奈も何か食べたい物あるか?」


麗奈も山本さんのコネで、特別に俺と同じ物を出してもらっていたので、きっと俺の気持ちをわかってくれるさ!


『りんご(*゜▽゜*)』

麗奈はリンゴが好きなのか、てっきり何でも良いって言うと思ったけど可愛い所あるんだな。

「雪兄の店には無いだろうから帰りに買って帰ろうか」

よほど嬉しいのだろう、いつも通りの無表情を少し緩め心無しか頭が左右に揺れている。

最近は2人でいる時のみ、こう言った一面を見せてくれる。


『君の好きな食べ物はなぁに?』


これが好きってのは昔から特に無いんだよな、代わりに嫌いな物も特に無い。

強いて言うなら蓮さんか雪兄が作った料理か?あの2人は別格に料理がうまい。


「俺は好き嫌いは特にないな、麗奈は嫌いな食べ物あるか?」

腕が治れば料理を振る舞う回数も増えるだろう、先に聞いておくとしよう。


『んー、極貧生活が長かったからかな、私も嫌いな物ないよ(*゜▽゜*)』

「そうなのかー、って…ん?極貧生活?」

聞き流しそうになったが、極貧生活という文字に引っ掛かりを覚えた。

親父さんが亡くなったのは聞いていたが、保険金などは入らなかったのだろうか。

そう言えば母親の話は麗奈から出ていなかったな。

『そうだよー、お父さんが亡くなって叔母に引き取って貰って、住むところと学費、生活費として二万円だけは出してもらって後は自分で何とかしなさいって』


やはり母親の話は出てこない……物心がつく前に亡くなったと考えるのが妥当か?

それなら部屋に最低限の物以外何もなかったのも頷ける。

生活費二万って普通なら足りないよな、光熱費とスマホ代だけで半分以上持っていかれそうだ。


「二万って……それじゃたりないだろ…?」


『幸い水道は家賃に含まれてたからお水を飲んで、後は何もしなければいいんだよ、何かしようとするからお腹が空くの、限界はあるけどねε-(´∀`; )中学校時代は辛かったけど、高校に入ってから琥珀と知り合ってね(*゜▽゜*)』


それからは琥珀さんがご飯の御世話をしてくれるようになったと言うわけか。

きっと麗奈と琥珀さんの間には目には見えない鎖で出来た絆があるんだろうな。


「琥珀さんに出会えてよかったな」

嬉しそうな雰囲気を出している無表情の麗奈の頭を優しく撫でてやる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ