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「私も、ごめんなさい」


 2人が頭を下げる。葵さんは無表情のまま、両手で頭をくしゃくしゃとかきむしった。

 受け止めるには、情報量が多すぎる。雅さんの話も、頭に半分も入っているかどうかだ。


「良いよ。2人は何も悪くない」


 死んだ感情から湧き出た嘘だ。葵さんの口調から諦めを感じる。

 このままだと、解散した後で葵さんが身投げしてもおかしくねえ。

 雅さんも、美雪さんも感じ取っていて、何を言おうか迷っているようだ。


「は?折角助けたんだから死ぬなんて許さねえよ?」


「……なんで、あんな姿出回って生きていけるわけないじゃない」


「俺の推しだから死んでもらっちゃ困る」


「馬鹿じゃないの?」


「馬鹿でも良いよ。美人で仕事のできる服屋の店員Aさんは俺の推しだから。麗奈にまだまだお洒落して貰わねえとだから。死んだら許さん」


 我ながら馬鹿げてる。こんな言葉で繋ぎ止められるとは思ってねえけど。


「私も!葵には生きていて欲しい!葵のことが好きだから!」


「私もだよ!葵ちゃん!ずっと助けたかった!」


 二人の言うことならどうだろう。どれだけ人生の絶望でも寄り添ってくれる人が二人もいるんだぞ。

 心配事が無くなったわけじゃねえけど、そっちはトラブルが起きれば俺が何とかする。


「……悠太くん……二人とも」


「私も。優しくしてくれる葵さんは好きになれそうなので、生きていて欲しいです。何より、もっと悠太に可愛い服を選んで欲しいです!何ですか今日の服!可愛すぎて鼻血が出そうですよ!これ選んだの葵さんですよね!絶対領域が!ふああああ!」


「……くす」


 葵さんが小さく、笑った。


「でしょ」


「はい!ぶっちゃけ辛抱たまりません!御三方が居なかったら今頃!今頃!」


「暴走しすぎだぞ」


 千秋の後頭部にチョップを入れて、黙らせる。あぎゃっ、と小さく悲鳴を上げ、俺を恨めしく、睨んできたが無視。


「推しの為に選んだ服だもの。可愛いのは当然ですっ」


 葵さんがびしっと俺を指さし、顔を上げた。


「帰ろっか」


 それから葵さんは解散を提案してきた。その顔は心配事は無くならないけれど、吹っ切れたようだった。

 多分。死ぬ気は無くなったと思いたい。


 別れの最後まで、葵さんの傍を離れたくないという、二人を説得して今日は帰ることとなった。

 もっとも、俺も今日は葵さんをそのまま家に返すつもりは無い。


「今日はありがとう。二人とも」


 駅前の帰り道が別れるところで、葵さんが言った。


「今日は帰さねえよ」


 と、ドラマの真似をしてかっこつけて言ってみた。

 彼氏役を全うするなら最後まで。


「もう大丈夫だよー。千秋ちゃんのお陰でね」


 千秋の暴走が、服屋の店員魂を燃え上がらせ、自殺を止めたってことか。


「私は思ったことを言っただけですけど、葵さんが生きていてくれるなら嬉しいです」


「えへへ。私も悠太くんの可愛い姿たくさん見たくなっちゃった」


 つまりは俺が推しだから?これ、俺、責任重大?


「女装は嫌だと言ったら」


「今すぐ手首切って死ぬよ」


 ああ、この先のことを思うとげんなりだ。

 俺に拒否権は無い。


「ったく。まあ、生きてくれるならいいか」


「ふふ。理不尽に与えたからには、理不尽にも付き合ってね」


 そう。理不尽に奪われた生きる理由を理不尽に与えたからには責任が伴う。俺も理不尽に付き合う義務があるのだ。


「はは、麗奈も喜ぶだろうよ」


「私も嬉しいです!妹みたいな弟ができた気分ですよ!」


 尚更げんなりだよ。妹みたいな弟ってなんだよ。せめてお姉ちゃんみたいなお兄ちゃんだろ。

「俺、年上」


「お姉ちゃんは麗奈お姉ちゃんが居ますから」


「じゃあお兄ちゃんでいいじゃねぇか」


「お兄ちゃんじゃダメなんですよ。結婚できないじゃないですか」

 妹も弟も結婚できねえけどな。


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