45頁
45
男の横頬にサイドキックをお見舞いしてやった。
「やだなあ。女性を食い物にするやつってのは口の利き方も知らねえ。んで?葵の事知ってんの?知らねーの?間違えんなよ?次は木刀だからな?」
「ししし、知りません」
「へぇ。じゃあ、なんで葵をヤッた男がケツ持ちにヤクザが居るなんて言うの?おかしくね?」
「ああ!あいつらか!……女性を無理矢理襲った映像を持ってくるものですから、利益になるんですよ」
「へぇ、具体的に教えてよ。その映像どうしたの?」
答えは明白。あまりにも胸糞すぎる。
「売りました。お金は払います!言い値でお支払いしますから!なんなら襲った男達も攫ってきます!」
だからどうか命だけは……か。
「もう捕まえてんよ。金なんかいらねえ、もう黙ってろ」
木刀を上段に構え、振りかぶる。
「動くなよ?」
「ま、まって!うわぁああ!」
静止の最中で振り下ろし、当たる寸前で、止めた。
男は泡を吹き出しながら失神した。情けねえ。
臭気が漂って来たと思えば漏らしてやがる。
「おい!起きろ!寝るな!まだ謝罪の言葉を聞いてない!」
男の胸ぐらを掴み、頬をペシペシと往復ビンタをお見舞い。
見る見るうちに、まるまると太った男の頬が膨れ上がった。
だが、一向に意識を取り戻す気配は無く、ぐったりとしたまま首をもたげている。
うわぁ、シルエットだけならアンパンマンみてぇ。
あいつには愛と勇気って友達がいるけど、こいつには助けてくれる友達がいるのだろうか。
「悠くん。遅いよ?何してるのー?」
「ん?アンパンマンみてぇじゃね?でも、まだ少しでこぼこだからまんまるになるようにバランス調整中」
終わったのに、中々降りてこない俺に、痺れを切らした涼夏が様子を見に来た。
1回アンパンマンに見えたら、ちゃんと再現しないとアンパンマンさんに失礼だ。
そう思って、沙織さんに引き渡す前に、バランス調整を施している。
「どう見てもじゃがいもだよぅ。外に沙織さん達来てるから早く降りよ?」
「なんだ。もう来てるのか。もう少し待ってて貰うようにお願いしといて」
すっと腕を引く。
「やだよー。なんか沙織さんカリカリしてるもん」
「どんな感じだった?」
「雑用ばかりだって怒ってた」
なんだ。欲求不満か。
詰まるところ、私にももっと暴れさせてください〜ってこと。
魔王様のお手を煩わせないよう、俺たち下々の者が危険を省みず、手を下したと言うに。
「やれやれって言いたそうだけど、暴れたのは悠くんがムカついたからでしょ?」
「だってムカつくじゃん。こんな人を人とも思ってなさそうなやつら」
「私は何も聞いてないからその辺の事情わかんないけど」
「イラつきが勝って説明すんの忘れてたけどよく付き合ってくれたな」
「私は誰が敵になっても、悠くんの味方であり続けるって、決めてるもん」
その思想が大変危険だってことくらい。俺にでもわかる。
「俺が間違ってたらどうすんだよ」
「理不尽に甘やかす。私に依存させて、理不尽に奪われることが合っても涼夏ちゃんが居るから生きようって思えるくらいにね」
そう言って昔と同じ天真爛漫な笑顔で、ニイと笑う。
辛うじて唯と、こいつは、まともだと思ってたけど、こいつもちゃんと狂ってたんだ。
「だから、みんなと結婚するように進めてきたのか?」
選ばれなかった自分の為、みんなの為。強いては俺の為。
全てを丸く収めようと考えた結果の重婚。
「だってしょうがないじゃん。負けヒロインはいやだから」
ようやく自分の足で立ち始めた俺を、繋ぎ止めておきたい。
そんな涼夏の願い。
俺は、自分のことしか考えてなかった。
彼女達を振り、誠実な姿を見せることが正しいことだと思っていた。
それが姉ちゃんの教えだから。だけど、その先のことが見えてなかったんだ。
 




