43頁
43
待てがかかる。扉に背を預け、しばしの間涼夏に動きがあるまで待つ。
急な手持ち無沙汰だ。木刀を構えたり、素振りをしたりして時間を潰す。
獲物を持ってヤクザの事務所に強襲とか、さっきも思ったがまんま4月のやり直しみたいだ。
不思議と恐怖は無い。理由は多分姉ちゃんから貰ったこの木刀と、相棒が涼夏だから。
後は、雪兄と琥珀さんとの特訓の成果。
多対一を想定してとか言われて、あの二人を相手にした時は死ぬかと思った。
数秒経った頃だろうか、電話口ではガサゴソと何かを物色する音が聞こえる。
『みっけたー!』
何をする気だ。
「待て、何する気だ」
『よーし!飛んでけー!』
俺の問いかけに、答えはなく、代わりに鳴り響いたのは窓の割れる音。
スマホから、階下からも直接聞こえた。涼夏が何かを投げ込んだのだろう。
続けて響く破裂音。何か知らんが上手くやってくれた。
後は俺が降りていって突撃をかますだけ。
体を預けていた扉を背中で押し、直ぐに動き出す。
『悠くんGO!』
言われなくてももう動いてるよ。
球技が得意な涼夏ちゃんに感謝しつつ、俺は階段を駆け下りた。
「カチコミか!?」「チャカです!伏せてください頭!」
扉の中からヤクザ達の怒号が聞こえる。扉の隙間から煙がもくもくと漂っている。
しめしめ、中はパニックだ。
静かに扉のノブを握り、回す。それから少し押すと、中から微風とともに煙が流れ出してくる。
良かった。鍵開いてた。この時代に不用心だな。
「すぅー」
一息だ。
口に襟元を当て空気を大きく吸い込み肺を満たす。
扉から中を覗き込むと煙越しのシルエットは3つ。何が起こったか状況判断をしようと、立って周りを見渡しているやつが1人。
俺は思い切って飛び込み、そいつの脳天めがけ木刀を振り下ろした。
「ぐぁ!!」
打撃の感触。ピリピリとした痺れが手に残る。完全にクリーンヒットだ。野球ならホームラン。ヤクザが膝から崩れ落ちた。
次。煙と偽の銃撃から逃れようと床に伏せているヤクザにサッカーボールキックを食らわせた。
すんなり進む。まるで女神にでも味方されてるよう。
すげぇ、木刀が手に馴染む。次の敵を討てって言われてるようで若干こえー。姉ちゃんが好戦的だったから、持ってた武器も持ち主に似た。もしくは姉ちゃんの思念が乗り移っているのかも。
そんな妄想を振り払い最後の敵を見やる。
1番奥、窓際の机の裏に居るのがカシラか。下半身を落としてしゃがみこみの反動を利用して、前方に飛び上がった。
瞬間。
「っ!」
外で響く癇癪玉の音に混ざり本物の音が室内に鳴り響いた。
あっぶねえ、もう少しであの世行きだったかもしれねえ。
机に着地して、蹴り足で背中から、間一髪発砲前に床に落ちれた。
リュックのお陰で衝撃吸収はバッチリ。置いてこようか悩んだけど、背負ってて良かったぜ。
机を挟んだ向こう側で……カチャ。と撃鉄を起こす音が聞こえた。
何とかしねえと次が来ちまう。琥珀さんみたいに発砲されてから避けるなんて芸当。俺にはまだ無理だ。
俺の位置も把握されている。なら一か八か飛び出して引き金を引くよりも先に……それも無理。俺の瞬発力よりも、指を引くだけの方が早いに決まってる。
銃弾一発くらい。頭を外せば受けても。
「くすっ」
頭の中に麗奈が出てきて、ばってんマークを作った。
そうだよな。良いわけがねえ。冷静になれ。なにか突破口はあるはず。
幸い敵も、この煙の中、迂闊に動かず俺が動くのを待ってる。
「出てこい。ステゴロなのは分かってる」
こちらの位置を探るような男の声。なるほど?正確な位置はバレてねえ。
だが、こちらに飛び道具がないことはバレてる。まあ、癇癪玉の音は外でしか鳴らしてないから当然だ。
「やだよ。出たら撃つだろ?」




