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「やっほー!悠くん麗奈さん!いい子にしてたー!?」
息を吹き返した山本さんが帰っていき、頬とは言えキスをしてしまった麗奈と気まずくなってしまい、無言で海から借りた漫画を読んでいると、学校帰りの救世主(涼夏)が現れた。
流石に病院ということでいつもみたいに扉は静かに入ってきたのだが、ラインの件で急いで来たのか、短い髪は汗で濡れ、頬が薄いピンク色になっている。
『涼夏ちゃんやっほー(о´∀`о)』
「お、おう、よくきたな」
「悠くん目が泳ぎすぎてるけど、何か悪いことしたの?」
キスからそれほど時間が経っていないからか、まだ動揺してしまい挨拶がぎこちなくなってしまった俺を不審に思ったのか、涼夏が目を細めて俺を疑うように見ている。
「な、なんもしてねえよ!」
「怪しいですなぁー麗奈さん何かありました?」
麗奈がスマホに何かを打ち込み涼夏に見せる。
涼夏は正面に立っている為、俺からは画面が見えないから何を言っているかわからないが、多分キスのことは流石に話していないだろう。
「ふむふむ、なるほど」
涼夏の顔が少しずつ訝しげに変わっていく。
麗奈も慌てて、またスマホに文章を書いて涼夏に見せる。
こいつまさか………………言った?
「なるほど、それなら問題ないですね!」
うんうん、と頷き、文章を書いて涼夏に見せると、それに納得したのか涼夏も頷き、麗奈がスマホを閉じて俺の横にに着いた。
「待て、何をする気だ?」
俺の質問を2人して無視したかと思うと、突然麗奈が手を伸ばし、俺の右腕と顔を押さえつけ
「悠くん、これは百合だからね」
むちゅ
涼夏にキスをされた、麗奈がキスした方とは逆の頬に。
――――――っ!
『可愛い幼馴染と綺麗なお姉さんにチューしてもらえて良かったね(*゜▽゜*)あ!朝からしてないからそろそろトイレしたい頃だよね、脱がすね』
俺の返答も待たず布団の下の方だけを剥がし、2人でごそごそと介護の作業をする2人に、男としての尊厳を失い、同じ女の子として扱われている俺は思った。
…………………………いっそもう殺してくれ。
「すみませんでしたー!」
『ごめんなさい』
「…………ひっく、ぐすん…………」
メソメソと泣く俺の目の前で涼夏と麗奈は頭の前にスマホを置いて土下座をしている。
こんな顔してても性欲が薄くても俺だって男だ、男なんだ……朝から麗奈に動揺させられ、麗奈にキスをされ、病室に現れた涼夏が色っぽかったり、涼夏にキスをされたり…………そういう気持ちになってしまう事ばかりだ。
何が言いたいかって?俺は2人の介護作業中に暴発してしまったのだ………………。
涼夏は気にして顔を真っ赤にしたが、麗奈だ、今朝と変わらない様子で『じゃあ、捨ててくるね(*゜▽゜*)』と病室を後にしようとする麗奈の後姿を見て、きっと女の子になんか余計な物がついてるだけだ、と言わんばかりの2人の態度に、何故だか涙が溢れてしまった。
甲斐甲斐しくお世話をしてくれる2人だ、悪意が無いのは理解している…けど女の子扱いもここまでくると、あんまりだ。
「………………ぐすっ、いいんだ、俺こんな顔だから……2人が謝る事はないよ、土下座はやめてくれ」
俺の言葉に、2人は渋々立ち上がると、両隣まで来て
「ごめんね、悠くん。私は女の子扱いしてるつもりは無いの…………その!男性のを見るのは恥ずかしいけど!トイレ行けないのは大変だと思って!」
『私も……居場所を与えてくれた君の為にお世話を頑張らなきゃと思って……ノリ以外で女の子扱いしてるつもりはなくて、ごめんなさい、嫌いにならないで……』
謝ってくれた。
そうだよな、いくら同性だと思っても、他人のそういうのまで進んでやりたがらないよな……。
ズズっと鼻を啜り、袖で涙を拭って、また溢れそうになる涙を無理やり引っ込める。
2人はこんなにも俺を思って本当はやりたく無いことまで世話をしてくれているんだ、これは些細な事なんだ、決して賢者モードでは無い。
「気にすんな、俺も勘違いで泣いてすまなかった」
まだ不安げな2人の頭を順番に撫でる。
「悠くん!」
『(*´꒳`*)』
2人に両サイドから抱きしめられる……感動的な場面だ、折れた腕が痛いのはこの際黙っておこう。
だが黙っておけない物が一つだけある、麗奈が捨てにいく寸前で暴発してしまった尿瓶だ。
「麗奈、嫌かもだけどあれ捨ててきてくれるか?」
置いておかれても嫌な気持ちになるだけなので麗奈にお願いする。
『わかったよ、捨ててくるね(*゜▽゜*)』
麗奈が尿瓶を持って病室を出ていった。