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 俺からすればお前の方が何してんの状態だ。

 後頭部を抑えて、唸り声を上げる葵さんから明らかに犯人は麗奈。凶器は手に持った例の如何わしい小説である。


 単行本位の厚みとはいえ、あれで殴られたら痛いに決まってる。


「なんで殴ったんだよ」


 しかも家宝と言っても過言では無いくらいに、大切にしている本だ。

 俺の問いかけに、麗奈は首を振ってからスマホを取り出した。


『この本には除霊の効果がある。だから葵に憑いてた霊を追い払った』


 そりゃ初耳だ。魔王の生み出した本だから特殊能力くらい備わっててもおかしくはないが……。

「葵さんが取り憑かれてたのか?」


『うん。沙織の生霊に』


 毒を持って毒を制したと。

 通りで葵さんが鼻息荒くして迫ってきたわけだ。

 少し恐怖を感じたのは沙織さんが乗り移っていたからと説明されたら納得がいく。

 ええい魔王め、こんなところまで腐の手を伸ばしてきたか。


 冗談は置いといて。


「でもお前。幽霊信じてなかったよな。見えるわけでも無いだろ」


 俺も華奈ちゃんに会うまで幽霊なんて非現実的だと思ってた。

 だって幽霊が居たらお互いの所に会いたい人がやってくるだろってのが俺の持論。

 幽霊が居たら麗奈と葉月姉ちゃんが毎日喧嘩するに決まってる。

 物理が効かない分麗奈に部がありそうだけども。


『お姉さんにはわかる。沙織に似た邪気を感じたから』


「同族嫌悪的な直感?」


 麗奈が沙織さんと同族とまでは言わないが、こいつが変態なのは避けられない事実。

 表情こそ変わらないが、相当なショックを受けたらしい。俺を見つめる瞳が少し見開き、口をぽかんと開けている。


『確かに葵と沙織には通ずる部分がある』


 そういう逃げ方をするか。


「嫌、沙織さんと同じはお前な」


『違う。お姉さんは無闇に君を襲ったりはしない。ちゃんと許可を取ってる( *¯ ꒳¯*)フフン』


「トイレも?」


 麗奈が頷く。


「この間の露天風呂も?」


 コクリ。


「度重なる女装も?」


 またコクリ。


 あれを許可と言うなら、拳銃を突きつけてお願いするのも、許可取りと言える。

「俺、嫌がってるはずなんだけど」


『嫌よ嫌よも好きのうち。君は喜んでる』


「麗奈の目は大分節穴みたいだな」


 その夕日みたいな綺麗な瞳はビー玉か、レジンか。

 麗奈は約束を盾にして俺に無理矢理言うことを聞かせる事を正当化する。

 それを甘んじて受け入れてきたが、友達を本で殴るのはやりすぎだ。

 ここは傍にいる人間として、パパとして、本気で叱ってやるのが、麗奈のためだ。


『君の貞操が危なかった。襲われてからでは遅いので、やむを得なかった』


「だとしても本で殴ったら痛いだろ?ダメじゃないか」


『暴走した沙織に言葉が通じる?お姉さんは通じるとは思わない』


 俺も思わない。現にショック療法で、正気に戻すのが比較的有効な手段だ。


「悠太くん麗奈ちゃんの言う通りだよ」


 後頭部を撫でながら、顔を上げた葵さんが麗奈を肯定した。

 なるほど、変態の暴走はショック療法が有効。それも軽めの一撃ではなく、渾身の一撃。

 俺にはできない。結構な確率で女性の変態に遭遇するのに、ここにきて姉ちゃんの教えが仇となるとは思ってもみなかった。


『葵。これは私のだから襲っちゃダメ』


 ぐいと俺の体を引き寄せ、所有権を主張する。

 もう、間違っちゃいねえから否定もしない。


「ごめんねぇ。その顔その年齢で子供の作り方とか知らないって、可愛すぎて暴走しちゃった。てへ」


『……葵に聞いたの?』


「お、おう。女の子に聞いちゃダメって言ってたけど、葵さんなら教えてくれるかなって思ったんだよ」


 ダメって言われてたことをしたから麗奈を怒らせちまったかも。


『変態にそんなことを聞いたらライオンに餌を上げてるようなもんでしょ!』


 葵さんが変態だったなんて知らねえよ。


「正確には、悠太くんに、性癖を歪ませられた可哀想な変態よ」


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