34頁
34
その辺のモテない男が聞いたら、発狂して殴りかかって来ても不思議じゃない
葉月姉ちゃんが男女問わずモテるような人だったから、その人そっくりの顔で、生き方まで指導を受けた俺がモテるのは、必然。
喧嘩の仕方は真逆なんだけどなー。
劣勢だったら迷わず卑怯な手を使うし。
「悠太くんは、私みたいな人が彼女だったら嫌?」
「……」
「嫌、だよねぇ。私みたいに昔沢山の男とシた女なんて、ごめんねえ変な事聞いて」
「全然。嫌じゃないっすよ」
「本当に?」
葵さんが可愛く首を傾げて聞いてきた。
「葵さん美人だし」
「何それ。顔だけ?」
今度は軽く片頬を膨らませて、抗議の目。
「なわけないでしょ。大事なのは過去より今。あと未来」
「でも、潔癖な人もいるでしょう?SNSとかでもよく見かけるけど、ヤリマンだとか言われてるのみたら彼氏作る勇気もてなくて」
「男の器がちいせえっす。俺その、男女のそういうのに疎いけど、女の過去を気にするような男は器がちいせえって、姉ちゃんが言ってた。だから気にしなくていいんじゃん?」
「本当に素敵なお姉さんだね」
「おお!うちの姉ちゃんの良さをわかってくれる!?」
「うん。強くてかっこいいなあって、私にも強さかあれば、こんなにはならなかった。と思う。私ね。あいつとは高校の同級生で同じクラスだったの」
「あいつ?ウリ坊のこと?」
「ウリ坊って、ふふふっ。そんなあだ名付けてたの?ウリ坊ってもっと可愛いんだから、動物のウリ坊に失礼じゃない?」
「……確かに。じゃあ、ゴミ野郎にしとこう」
「名前を聞く気はないんだね」
「捕まえてるから聞く必要もないでしょ」
「そうね。私も、口に出すのも嫌だから。じゃあ今度は私の話……聞いてくれる?」
黙って頷くと、葵さんは語り始めた。
――――――――――
ゴミ野郎は葵さんの高校の頃の同級生で、当時から女性関係で良くない噂が立つような男で、仲間も同種の人間だったこと。
そんなゴミ野郎に告られた葵さんは、当時付き合っていた彼氏が居たから、丁寧に断ったらしいのだが、無理矢理体の関係を強要された。
その時撮られた行為の動画を脅しに、何回も呼び出されたこと。
次第にゴミ野郎の非道な行いはエスカレートしていき、仲間内での行為の強要、非合法的な薬を使われたこと、拒めば暴力を振るわれたこと、妊娠、堕胎をさせられたこと。
どんどんと精神をすり減り葵さんの様子がおかしい事に気づいた彼氏に葵さんは問い詰められ、全てを話すと、彼氏は汚いものでも見るように葵さんを突き放したこと。
その話には暴力の限りが詰まっていた。
悪魔のような人間。いや、人間ですらねえ。
こんなことあっていいはずがない。信じられない。
でも、被害者は目の前に居て、悔し涙を流して顔を伏せている。
どんな言葉をかけていいかわからない。俺だってこんな顔をしているが、生物学上男だ。
知識に疎いとは言え性欲はあるし、女性を目で追ってしまうこともある。
だから、悪い男からこんなにも理不尽な暴力を受けた葵さんに、男の俺が綺麗な言葉をかけても、救いになるどころか、下心と受け取られてしまうのではないか。
恐怖心を与えてしまうのではないか。
そう思い。少し尻を浮かして、葵さんから離れた。
「君も、私を汚いって言うの?そうだよね、こんな誰にでも股を開く女嫌だよね。死にたい。せっかく自由になって、やりたい仕事見つけて楽しくやってたのに、出所してきて最初に私に会いにきたって。気持ち悪い。悠太くんにも嫌われて。殺してやりたい」
ボロボロと涙を流しながら恨み辛みを吐き出す葵さん。化粧は崩れて美人な顔立ちが台無しだ。
「何泣いてんの?同情してるの?可哀想な女だって思ってんでしょ、なら変わってよ!私と人生変わってよ!」
俺の肩を掴み言ってきた。




