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直近で言うとウリ坊をどうしたとか事細かに聞かれると都合が悪い。
どんだけ俺が正当性を主張しても暴力は犯罪だから。
「悠太君には全部。話したい」
全部か。話されても理解出来ないところもあるから、長丁場になりそうだ。
特にウリ坊の言ってたウリとか、説明が必要な部分もあるけど、掘り返していい物なのかも気になる。
「俺に受け止めて欲しいってこと?」
「まだ未成年の悠太くんにはショックなことかもしれないけど」
「頼られるのは全然嫌じゃないよ」
こんな綺麗なお姉さんが俺を頼ってくれると言うのだ。
俺だって年頃の日本男児。いくら硬派を気取ってても美人の憂い顔には弱い。
治安を良くしたいという思いもある。
「ごめんね」
「謝んなって」
罪悪感は簡単に消えないよな。でも、俺も、麗奈も、千秋は知らねえけど、葵さんとはこれまで通りの良好な関係を続けていきたい。
折角友達になれたんだから。
なら維持するために俺に出来ること……晩飯に誘う?
でもそろそろ姉ちゃんに、また傷心の年上の女性を連れ込んでなんて、ナンパな男だと思われたら硬派な俺としては涙がちょちょぎれること間違いない。
「俺にも。心に傷があんの。聞いてくれる?」
だから少し、俺の事情を葵さんにもお裾分け。
「うん。聞かせて」
「うち。姉ちゃんが二人いるんだけど。めちゃくちゃ美人でさ。俺に優しくしてくれる大好きな姉ちゃん」
「素敵なお姉さんたちなんだね」
「おう。最高の姉ちゃんだよ。将来結婚するつもりだった。だけど、4年前の春に、上の姉ちゃんが刺されて死んじゃってさ」
「……えっ。ニュースになってなかった?」
「なってた。通り魔とか怨恨とか色々言われてたけど、まだ犯人が捕まってねーの。でその姉ちゃんなんだけど、俺を守って死んだんだ。俺を背負ったまま、すれ違いざまに刺されて、俺を守りながら戦って、最後は俺と、もう1人の姉ちゃんを逃がそうと、犯人の足にしがみついて、死んだ」
俺の記憶には無いけど、菜月姉ちゃんから聞かされた一部始終を話す。
「トラウマもの、だね」
「ああ、4年間、現実から逃げて。喧嘩に明け暮れるくらいには。姉ちゃんそっくりだから見た目で悪いやつには見えねえかもだけど俺は相当悪いこともしてる。一度暴走族と張り合った時は命のやり取りにまで発展仕掛けた」
1対15。相手の命のことなんて、気にかける余裕も無かった。
終わった後、後遺症が残ったヤツもいただろう。未だに俺の事恨んでるやつもいると思う。
いつ死んでも構わない。無鉄砲でその時は普通で忘れかけていた。今思い出してみると、一歩間違えたら死人が出ていたと思うと怖くて足が震える。
刺されたような痛みにグッと服の上から心臓をおさえた。少し息切れ気味に呼吸も浅くなる。
「悠太くん大丈夫!?」
「大丈夫。絶望の縁から麗奈達が掬いあげてくれたから、今は生きていたいとさえ思えるようになったんだ」
あのまま行ってりゃ俺は今頃ヤクザにでも喧嘩を売って野垂れ死んでただろう。
止まり方を忘れていた節もある。喧嘩して、喧嘩して、最後には自分よりもずっと強いやつと喧嘩して、死ぬ。
望んでいたこととは言え、愚かだな。
姉ちゃんと涼夏と麗奈、みんなに感謝だ。
もう死にたくない。けどそう考えると昔のツケが回りまわって来るかもしれねえ。
その時は……俺が全力でみんなを守ろう。奪われんのは、勘弁だ。
「羨ましいな。私にはそういう人いなかったから」
「俺たちが葵さんにとっての麗奈になるよ。流石に四六時中隣には居られないけど」
「悠太くんってさ。モテるでしょ」
「モテな……モテてるっす」
否定しようとして、やめた。
遠くで聞こえていないはずの麗奈から強烈な視線を浴びたのも理由の一つだけど、もうモテない。とは言えない。婚約者の数がもう否定出来ないところまで来てやがる。
下は12歳から上は25歳まで、こんなつもりじゃなかったのに。




