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ついにやってきた水族館。とはいえゆっくり回っていると姉ちゃんの帰り時間に間に合わねえから、イルカショーへと直行だ。
入場券売り場が混んでなかったのが、せめてもの救いだな。
「すごいです!イルカさんめっちゃ賢いです!」
言うこと聞いてくれるから千秋よりも賢いかもしれん。
こいつさっき俺がトイレに行こうとしたら、ついて行くとか駄々を捏ねて大変だった。
本当に片時も離れてくれない。まるで麗奈のよう。
麗奈?もちろん当然のように、着いてこようとしてたから、外ではやめろって釘をさして置いた。
「悠太よりも賢いですね!」
言いやがったなこの野郎。葵さんが千秋の発言を聞いて、上品に口に手を当てクスクス笑ってる。
「俺も千秋よりもイルカの方が賢いと思ってたところだよ」
「私はイルカより愛想を振り撒きますよ」
あれを超える。だと?愛らしくキュイキュイ鳴いて、飼育員のお姉さんの合図に合わせて飛んだり潜ったりと芸を披露してるあいつらを……。
「……張り合えねえよ」
千秋はまだしも俺はあんなに愛らしく振る舞うことは出来ねえ。
つうか俺がイルカなら、餌をチラつかされてもそっぽを向く。
「悠太くんも充分愛らしいと思うけど」
葵さんの目は節穴だ。俺はかっこいい。ノット愛らしい。
「葵さんの目は節穴ですね」
「ええっ!悠太くん可愛いよね?」
千秋とよく考えが被る日だ。俺に双子の妹なんて居たっけ。なんてくだらないことを考えてみたり。
「悠太は愛くるしいです。ぷいって顔を背けるところを含めて狂おしいまでに可愛いです」
「わかるわ!カッコつけようとしてるところとか可愛いよね!」
元気になったとこはいいことだけど。年上の女性に可愛いと言われるのは本望では無い。
『お姉さんが餌をちらつかせたら芸してくれる?』
「お前俺とああいう感じの事がしたいの?」
泳げない俺が麗奈を乗せて泳げるように練習しないといけないとか、めちゃくちゃハードだ。
水の掛け合いしてキャッキャウフフとか恥ずかしい。
『悠太。お手』
すっと俺の前に出された手を、俺は片手で掴んで、俺の手のひらに乗せた。
「おおおー!」
イルカが芸を決めたのか。周囲がざわめきたつ。
「予想通りの反応で可愛いです!」「本当に。予想通りだわ」
ざわめきたつ歓声に混ざり、2人が声を上げた。
俺を見ながら、麗奈はドヤ顔。
なんか麗奈にしてやられたようでムカついた俺は、ぷいと顔を背けるという悪手を取ってしまった。
「もう!どこまで愛らしいの!?」
ちくしょう。何をしても茶化される。葵さんめ。
「葵さん、お手」
俺の言葉を聞いた葵さんは迷うこと無く、俺の手のひらに手を置いた。
犬のように舌をペロッと出すというおまけ付き
「わん」
俺の負けだよ。可愛すぎて、イルカショーどころじゃない。
「おかわり」
反対の手を出す。葵さんよりも先に置かれた手。異常なほどの反応速度を見せたのは麗奈だった。
なんか凄くイケないことをしてる気分だ。
「あごはまだ?」
葵さんに甘えた声で聞かれた。
「流石にちょっと。ラインは超えられないっす」
「君なら良いのに」
そう言った葵さんの顔は少しだけ、寂しげだった。
――
イルカショーも終わり、お土産屋にやってきた。麗奈と千秋に店内を見て回るのを任せて、俺は葵さんと話をすることにした。
「こんなところだからあまり大っぴらな話は出来ないけど、事情聞かせてくれない?」
もっとゆっくり話せる場所がいいが、ここを逃せば、後は地元に帰って、解散してしまうからしょうがない。
むしろ周囲の話し声がでかいから、俺たちの話もある程度掻き消されるからある意味話しやすいけど。
「話したくないことは話さなくてもいいよ。俺だって疚しいことも聞かれたくないことも多かれ少なかれあるし。なんなら相手の名前とか、繋がりとかわかる範囲の事だけでもいいよ」




