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『大丈夫。建前とかじゃなくて本当に。じゃんじゃんうちの悠太を使って。なんならお姉さんついて行くって言ったけど席外すよ?』


 ケロッとしてた。無表情の微細な変化もなく、全然気にしてない様子。

 千秋の方をチラと見る。聞いているだけだったが、少し嫌そうな顔をしつつも話の流れを邪魔しないように口を噤んでいる。


 俺としては千秋の反応の方が正しく思う。

 もし仮に麗奈が誰かの彼女役を頼まれたら、千秋のように口を噤んではいられない。つーかぜってー邪魔する。

 なんなら俺が断ってやる。


 想像しただけで腹が立つ。


「……本当に大丈夫?」


『んー。悠太は葵のみたいな素敵な女の子はタイプ。だけど、お姉さんには約束があるからね。お姉さんから悠太は奪えないよ』



「正妻の余裕!?凄い大物だね。麗奈ちゃんは、私なら心配しちゃうよー」


 葵さんは仲の良い人にはタメ口なのか。


『ふふ。少し前の私なら心配してたかもしれないけど、今は違う』


 そう言って麗奈はカバンの中を漁り始めた。

 取り出して印籠の如く見せつけるは一枚の紙。ご存知、婚姻届だ。

 


 そうだね。その紙がある限り俺を捕まえたも同義だよね。

 でもそれ、涼夏に預けてなかったっけ。そんなものここで披露したら。


「婚姻届ぇえ!?私も持ってないのにぃ!!」「麗奈お姉ちゃんだけズルいですよ」


 金貨の詰まった宝箱でも見るように、眩しげに紙を見て平伏した葵さん。

 千秋は可愛らしく俺の服の裾を引っ張ると、頬を膨らませて不満を漏らした。


 これはあれだ。学校の皆は、あの玩具持ってるのに、私は持ってない。って駄々を捏ねられるやつ。

 ちなみに俺は髪を切らせて貰えなかった。1人で風呂に入らせて貰えなかった。

 何か物をねだった訳では無いけども、小学校高学年にもなって、姉ちゃんと風呂に入ってるなんて馬鹿にされる。


――ねえ、ちゃんと風呂に入ってる?

 は悪魔の質問だ。あれのせいで、ムキになった俺は、姉ちゃんと風呂入ってるやつとして赤っ恥をかいた。


「聞いてるんですか?悠太。あれはなんですか?」


「あれは婚姻届です」


 英語の翻訳のお手本のような質問に同様の返し。


「茶化さないでくださいよ。もう!……ねぇ、悠太?私もあれ、欲しいです」


 キラキラした目で見下ろすなよ。

 ガキのねだり物って下からキラキラした上目遣いで見られるから、ついつい与えてしまいたくなるものなんだな。

 多分上目遣いが重要。間違いない。


「子供らしく可愛くおねだりするには頭がたけぇよ」

 

「ねぇ、悠太?あれ欲しいですっ、千秋もあれ欲しいですぅ」


 だからってしゃがみこんで見上げられたら、説教されてるガキの気分を味わう。


「……また今度な。お前が用意してきたら書いてやる」


「ふふふっ。約束ですよ」

 あれがどこで手に入るものか。こいつは知らないだろう。俺も教えてやんね。


「麗奈お姉ちゃんに頼んでネットプリントして貰います」


 その手があったか。安易に頷いた己の愚かさを呪う。

 俺はヤケ気味に、しゃがみ込んだ千秋の頭を撫でて、くしゃくしゃにしてやった。


 にしても意外だ。麗奈が俺の傍を一時でさえ離れようなんて。

 信じて貰えてると思えば嬉しい反面寂しいと思ってしまうのは、俺の方が麗奈に依存している可能性があるのか。


 いや、多分親離れを経験する親の気分だろう。寂しくなんてねえし。いつかは来ることだし。


『お姉さんの粘着ストーカー度合いを舐めない方がいい』


 急に画面を見せられた。

 粘着ストーカーって、自分の事ちゃんと客観視できたんだ。


『今回はお姉さんもどうしてもやりたい事があるから、引き下がるだけ。安心して、琥珀と出掛けるから身の安全は保証されてる。寂しがる必要も無い』


「そんな、表情に出てたかよ」


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