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言ってもう一度千秋の足を持つ。
「ひゃっ」
ぐっと持ち上げると可愛い悲鳴が漏れた。安全な体勢を作る為だ。
「セクハラですよ」
やましい気持ちは無い。だからケツに触れてしまったのは、ノーカン。つーかガキ相手にセクハラする訳ねえだろ。
だが、相手は女の子。口に出せば
ジト目で俺を見て、気が済んだら俺の肩に顎を乗せた。運ばれる準備が整ったようだ。
「転げ落ちたら死んじまうから大人しくしとけよ」
「……っ!……降ります」
死ぬってワードに千秋の顔が一瞬顔が強ばった。
「黙って運ばれとけ」
『お姉さんもヽ(*´ ^ `*)ノ ダッコォ...』
「2人は流石に無理だ」
――――――――
補講の始まりにはギリギリで到着した。教室に入ると立花先生が先に待っていた。
「おはよう春日!秋山!今日はギリギリだな!そちらの子は?」
つい先日まで、死にそうなゾンビ顔で教壇に立っていた立花先生から、放たれる爽やかイケメンスマイル。もう慣れてきたけど最初は違和感が半端なかった。
今日みたいにギリギリの時間で来たなら、確実に教卓をベッド代わりにして寝ていただろう。
「おざっす!親戚の子なんすけど、俺たちが補講に出掛けちゃうと誰も家に居なくなるんで、申し訳ないっすけど教室に居させてあげてもいいすか?」
人類元を辿れば皆親戚と言うから嘘では無い。ただ説明の手間を省いただけだ。
もう数ヶ月、たまにはトラブルに付き合わせてしまったこともある先生だ。
話せばわかってくれるだろうけど、大人の説明責任として、先生も事情を知れば、千秋の親に連絡を取らなければ行けないかもしれない。
それによって、雪兄を中心に誘拐事件にまで発展されたら厄介だとも思った。
「春日は家族から親戚までみんな顔が整ってるんだな」
「ん?先生ってうちの親父と母ちゃんに会ったことあったっけ」
先生があからさまに1歩後ずさった。
「い、いや、ほら、ご子息の悠太の顔が整っているのだから、親御さんもさぞ整った顔立ちをされているのだろうと、俺の予想だよ、はははっ」
会ったことあるんだな。しかも何かしら圧力を加えられる形で。
多分校長が交代するタイミングくらいじゃないかと予想する。あれは確か、理事長の独断と理事長から聞いているけども、うちの親父が1枚噛んでいるに違いない。
ご子息とか普段使わねえ言葉使っちまってるし。
「そうすか。で、こいつもいいすか?」
「お願いします……立花先生」
俺に腕にしがみつき、立花に儚げな少女の視線を送る千秋を指差す。
これは俺と麗奈が共同で指示を出した。こんないたいけな少女に、おいそれと帰れなんて言えるわけねえ。
「可愛い……いくらでも居て貰いなさい。なんなら残りの夏休み。好きなだけ一緒に来てもいいよ」
「ありがとうございます。立花先生っ」
立花先生は千秋から繰り出された微笑みにハートを鷲掴みされたようで、胸を押さえて悶絶している。
「物騒な世の中だから。お兄さんに守ってもらいなさい」
「はい」
「何か困ったことがあったら先生に言うといい。将来の生徒の為に力になろう」
「わぁっ。ありがとうございます。頼りにしてますね」
涼夏のようなあざとさを自然に出せるとは流石小学生。いとも簡単に大人を籠絡しやがった。
「先生。私お兄ちゃんのお膝の上で授業聞きたいです」
「いいぞいいぞ。是非そうしなさい」
止めろや。俺より身長高いんだから、黒板が見えねえじゃねえか。
「邪魔するなら雪兄に迎えに来てもらうぞ」
こっそりと千秋に耳打ちする。
千秋がこっちにいる事は連絡済みだ。
雪兄も朝の仕込みの最中で千秋が居なくなっていたことに気が付かなかったらしい。
「先生。お兄ちゃんが邪魔するなら帰れって……私一人になっちゃう」
「こんな可愛い子に帰れだなんて春日は鬼か」




