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だから腹を立てたりはしない。
「ここの御料理美味しいんだって。隣のクラスの子から教えて貰ったんだ」
「雰囲気も良いな」
そう。俺たちは食べ物を目当てに、この店に足を運んだ。
だが、この落ち着く雰囲気に、コーヒーの香ばしい匂い。そして俺を男として接客してくれた爺さん。料理やコーヒーを頼む前から満足度が高い。
店に足を踏み入れた瞬間から大人の仲間入りを果たした気分だ。
ネットでレビューするなら是非星5をつけさせて頂く。
テーブルの隅に置かれたメニューを2部手に取り、1部涼夏に渡し、俺も開く。
『お姉さんはアイスが乗ってるパフェにする』
すかさず大好物のアイスをご所望の麗奈。俺は何にしようか。腹減ったからオムライスとかいいな。ナポリタンもいい。
コーヒーを飲むならサンドイッチもありだ。
「……悩むな」
コーヒーを頼もうと思ったが、自家製オレンジジュースに目が止まる。
麗奈がアイスジャンキーなら俺はオレンジジュースジャンキーだからだ。
が、オレンジジュースとオムライスなんて子供っぽい組み合わせ。涼夏と美鈴に馬鹿にされそう。
チラと隣を見る。
ここは大人っぽくコーヒーにサンドイッチにしておこう。
「じゃあ俺はコーヒーとサンドイッチにする」
麗奈と目が合う。オレンジジュースとオムライスじゃなくていいの?と聞きたげだ。俺はそれに頷き、対面を見やる。
「注文は決まったか?」
「そうね。カフェラテを頂くわ」
オシャレな飲み物だ。
「私はこれとメロンソーダ!」
涼夏が指さしたのは、期間限定ジャンボパフェ。通常の5倍サイズ。時間内に食べきれたら無料。挑戦者求む。
人を呼び込む為に作られたメニューなんだろう。なるほど、こいつがこの店を提案してきた理由はこれか。
「ひとつにしとけよ」
せっかく雰囲気の良いお店を見つけたんだ。出禁にはなりたくねえ。
「えっ!5個は食べないとお腹いっぱいにならないよ」
どこの世界にパフェを25人前食べるやつがいるんだよ。
こいつなら食えるか。
俺は1個でも胃もたれする。これでもかと言うくらい生クリームが盛られた写真を見て思った。
「ダメだ。そう言うのは雪兄の店でやれ」
「雪人さんチャレンジメニューやってくれないじゃん!」
「お前が来るからな」
「ぐぬぬ」
「また、食べ放題に連れてってやるから我慢しろ」
「涼夏。お店の迷惑になったらいけないから今日は1人前で我慢しましょ?」
違う。それひとつで5人前だ。
「うーん。初めて来るお店だもんね。じちょーするー」
涼夏が納得してくれた。良かった。今日は不幸になる人はいなさそうだ。
「よし、涼夏、偉いぞ。すみませーん」
涼夏を褒めて、店主に声を掛けた。
店主は紙とペンを持つとしっかりとした足取りでこちらに来た。
「ご注文は?」
「私はカフェラテをお願いします」
「カフェラテね」
「私はチャレンジメニュー!とメロンソーダお願いしまーす!」
店主が眉をひそめてマジマジと涼夏を見た。
「お嬢さん。あまり沢山食べそうには見えないけど、大丈夫かい?失敗すると高いよ」
俺たちの財布を心配して言ってくれた店主に、涼夏は煽られたと勘違いしたようだ。
「私めっちゃ食べれますよっ!なんならチャレンジメニュー5人前でもよゆーです!」
「育ち盛りなんだねえ。じゃあ、まずはひとつ作るから、それを食べられたら次を作るよ」
なっ!と驚愕した店主は、すぐに柔和な笑顔に戻り、口元に蓄えた髭を指で擦り、言った。
「いや、そんなこと言ったらマジで食うっすよ」
「良いんだよ。私は美味しそうに食べてくれる子の笑顔が好きなんだ」
この人めっちゃいい人じゃん!
決めた。俺、ここの常連になる。
「そちらの坊やは何を作ろうか」
「えっと、コーヒーとサンドイッチでお願いします。後パフェ、アイス乗ってるやつを隣のヤツに」




