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「君のお姉さんに言われた通り、君と話してよかった」


「は?姉ちゃんいるの!?」


 キョロキョロと視線を動かすが、見えるのは暗い海辺だけ。姉ちゃんの気配すらない。


「私が存在してるんだから君のお姉さんも存在してもおかしくないと思わない?」


「盲点だった。でも、なら、なんで姉ちゃんは俺の前に出てきてくれねえの?」


「君の霊感がゼロだから。でも、君のお姉さんはずっと君の傍にいる」


 ……守護霊ってやつ?

 げっ。それはそれでマズい。麗奈の存在が知られてるってことじゃん。


「だから浮気者って言ってきたのか!!」


「ふふ。これだけは言っておいてって言われたもの」


 そう言って意地悪そうに笑う華奈ちゃん。この人全然善人なんかじゃねえ。普通に性格悪いぞ。


「むすっとしないで。可愛い顔がもっと可愛いわよ」


「うっせぇ。俺は男だから可愛いはムカつくんだよ」


「君は可愛さも武器だと思う。そうだ。最後に聞くけど、赤ちゃんの名前は何にするか決めたの?」


「最終的には麗奈と相談して決めるけど、女の子だったら華奈ちゃんの名前を貰う」


 と言うと華奈ちゃんはニコッと微笑んだ。なにか喋っているけど声はもう途切れ途切れで判別できない。


「だから安心して転生してこい。次の人生は俺が幸せにしてやるから」


「ふふ、好きになっちゃうじゃない」


 最後にハッキリと言葉を残して、華奈ちゃんは離散していった。



 終わった。

 気の緩み。感覚が無くなった足が力を失い体勢が崩れる。

 目の前に広がるはひとりぼっちの夜の大海原。急に孤独になっちまった。

 ヤバいって、俺泳げねえの。死ぬって。


「っひゃ!」


 不意に後ろから脇に差し込まれた何かに体を支えられびっくりして声が出た。


「……麗奈」


 暗闇でもわかる、この安心感すら覚える後頭部の感触は麗奈だ。


 首だけ振り返る。怒ってはなさそう。なんならちょっと嬉しそう。

 月に照らされたオレンジがかった黄色の瞳には、九死に一生を得た愚かな俺が映っている。

 迎えに来た。麗奈は口パクで、そう言った。


「助かる。俺、足の感覚が無くて、っと、うわぁ!」


 麗奈が、俺の膝下に手を入れて持ち上げた。

 力が無いのに無理して、手が震えている。

 お姫様抱っこと言うやつだ。

 普通におんぶでよくね?女の子に助けて貰ってる時点で情けねえけどさ!


 夢に真姫と葉月が出た。麗奈の口が軽快にそう言っている。

 麗奈の唇を読むしか会話の方法がねえから、この辱めも受け入れよう。


「そっか。俺も。姉ちゃんに化けた幽霊を見たぞ」


 俺たちを見ているのは月しかいないから。


 時間をかけて砂浜へと引き返してきた。麗奈はそこで体力が尽きて、俺を砂に降ろすと、座り込んで肩を寄せ合う。


「悪ぃな。無理させちまって」

 

 お腹の中に赤ちゃんが居るのに。

 

 俺が謝ると麗奈はポケットから防水ケースに入ったスマホを取り出した。

『大丈夫だよ。お姉さん意外と力持ち└( 'ω')┘ムキッ』


「無理すんなよ。腕が震えてたぞ」


『寒かったからね(( ´ω` ))ブルブル』


「後3分ぐらい耐えてくれ、そしたら旅館に帰って貸切温泉に入ろうぜ」


 本当は早く帰してお腹を温めてやりたいけど、足が動かねえ。

 代わりに、着てきた上着を脱いで麗奈に掛けた。


『君も寒いでしょ?』


「いらね。俺は熱い男だから大丈夫。お前はお腹冷やしたら大変だ」


『ありがと』


「おう」

 礼に短く返事をして空を見上げる。


「すげぇ絶景だなー!星が綺麗だ!」


『本当だ。凄く綺麗。でも、君の方が綺麗だよ(`•∀•´)✧月夜に照らされて風に靡く金髪。白い肌。とっても綺麗』


「馬鹿言え。お前の方が……その、なんだ」


『|ω・)ジーッ』


 恥ずかしい。綺麗だって一言。麗奈には言い慣れてる筈なのに、こんなにも恥ずかしいなんて俺らしくない。

 


「そうだ。姉ちゃんと真姫ちゃんは何か言ってたか?」


 

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