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嘘だけどな。本当は半信半疑だった。
バストサイズの事もそうだが、麗奈の話をしたら発狂するだろう。それに俺が手を振り払ったら無理矢理握りに来る。
「ところでさ。悩みと言うか相談があんだけど……聞いてくんね?」
「えっ!こんな時に人生相談!?時間はあまり残って居ないけど、いいわ。聞いたげる!お姉さんにどんと任せなさい」
「お姉さん枠は足りてるから。で、姉ちゃん。んー。名前なんて言うの?」
俺が姉ちゃんと呼ぶのは2人だけで、自称お姉さんも居るからなんて呼んでいいかわからん。
「華奈よ。名字は思い出せないの」
「じゃあ華奈ちゃん。軽い気持ちで聞いてくれ」
「ちゃん、って随分気安く呼ぶのね。そうね、聞かして」
「麗奈と姉ちゃんを妊娠させちまった」
「恋人と実姉両方!?……可愛い顔してやる事やってるのね。少しでもかっこいいかもって思ってた私の乙女心を返して」
「いや。麗奈は恋人じゃねえ。俺は常にかっこいいよ。褒めてくれてありがとう」
「恋人じゃないならもっとクズじゃないの。女の敵ね」
「仕方ねえじゃん。酔ってたんだよ」
「お酒に酔って生でシたと今のところ君、生かしておいてもいい事がないような気がするんだけど、いっそ連れて逝こうかしら」
生?生って生身で寝たってこと?この人の言葉選びは独特だな。
「でも、子供が出来たなら死ぬ訳にはいかないだろ。むしろ死ぬ気で働かねえと。それが男の責任ってもんよ」
「そもそも君、今日の酔い方を見るにお酒飲んだの初めてじゃないの?」
「酒は今日が初めてだよ。全く記憶が残ってねえけど」
「今日、裸で寝てたのは君が吐きまくって2人の着替えを汚したから3人ともすっぽんぽんだっただけよ」
「マジかよ。寝る前からすっぽんぽんなら赤ちゃんが出来たのは確実じゃん」
「へ?」
「赤ちゃんって、愛し合ってる男女が裸で寝たら出来るんだろ?」
「ん。ぷぷ、あはははは!」
華奈ちゃんは腹を抱えて笑い始めた。
なんで笑うの?姉弟で寝た場合は出来ねえとか?
つーか人の悩みに爆笑するとか性格わりい。
「笑うなよ。俺だって華奈ちゃんの為にこのクソ寒い中ここまで来たんだぞ」
もう膝下の感覚が無くなってきた。いい加減海から上がりたい。
「あは、あはは、ひー、笑い死ぬっ、笑ってごめんね」
「おう。謝ってくれたから許す」
「それで、悩みって?覚悟は決めてるみたいだから、悩むことは無いと思うけど」
「名前だよ。俺名付けのセンスとかねえからさ。華奈ちゃんは色んな人を連れてったことになってるわけだろ。いい名前無い?」
「全部死んだ人の名前だから縁起悪くない?私の名前にしておいたらきっと美人に育つわよ」
「麗奈の名前にかかるから確かに良いかなって思ったけど、それも縁起悪くねえ?」
「私。人を連れてったことないからね」
だよね。華奈ちゃんからはとてもじゃないが悪人の雰囲気は感じない。
それどころか、善人オーラすら垣間見える。
「じゃあなんで俺を連れてきた?海に引きずり込むためじゃねえの?」
「その都市伝説ね。最後の被害者は私」
「……実在はしてたのか」
「最悪よ。酷い目にあって心を癒そうと思ってここに来たのに、ここでも酷い目にあったの、あはは」
「実際に死んだ人の前で笑えねえよ」
「笑っていいよ。どんな酷い目にあったとか。気にならない?」
「聞いてほしいなら言えよ。俺の方から聞くのはなんつうか。トラウマをほじくり返してるようで嫌だ」
人には聞かれたくないことだってある。
俺だって不躾に葉月姉ちゃんの事を根掘り葉掘り聞かれたらブチギレる自信しかない。
「優しいんだね。そうだな……君と話し終わったら成仏だから、最後に聞いてほしいな」
じゃないと誰にも知って貰えずに逝くことになるからね。華奈ちゃんは寂しげに笑った。




