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 本当なら2人が起きるまで見ていたいんだ。

「待てない。時間が無いのよ。今すぐ行かないと」


 姉ちゃんは切羽詰まって俺の手を引っ張った。

 実体化できる日は今日だけ。それか今日を過ぎると成仏してしまうとか。


「わかったよ。スマホと財布だけ持ってきていい?」


 部屋端にある机の上に置かれた物を指差しながら言った。

 備えあれば憂いなし。帰り道に迷ったり心細くなったら問答無用で雪兄に電話を掛けるんだ。

 睡眠妨害なんて知ったこっちゃねえ。いつでも俺を頼れと言ったのは雪兄だからな。


「スマホ?持ってって良いから兎に角早く行こ!」


 姉ちゃんが亡くなった時にはまだ、ガラケーが主流だったから仕方ないね。

 これで写真を撮ったり動画を見て暇つぶしができるって知ったら姉ちゃんも驚くかな。

 ガラケーでもそれくらいは出来るけど、画質が違う。動画だってニタニタ動画だけだったけど、スマホならWhuTubeも見れる。


 俺は最後にもう一度、素晴らしい光景を目に焼き付けてから、立ち上がり、スマホを手に取って姉ちゃんと、部屋を出た。


 ――――――――


 ロビーを過ぎ、外に出たところで、肌寒くて引き返したくなった。

 海が近いから風も強い。下から吹き上げる風には少し慣れたのが、なんとも言えない気持ちだ。



「姉ちゃん生きてる時ってスカート短かったけど、寒くなかったの?」


「寒いけど、女の子はオシャレの為なら風が吹こうが雪が振ろうが我慢するものなのよ」


 根性ですか。なら俺も女の子に習って気合いで、この肌寒さを凌ぐとしよう。


「よし!慣れた!」


 腕を体の前で組み、小さく縮こまって歩いていたが、大和魂で胸を張って歩くことにした。


「やっぱ寒い!」


がすぐに断念。


「んふ。手を繋ぐ?」


 見かねた姉ちゃんが、俺に手を差し出してきた。


「そんなにガキじゃないから大丈夫だよ」


「……そっか」

 

 ありがたい申し出を男らしく断る。

 姉ちゃんは残念そうにしながらも、海に向けてどんどん歩きが早さを増している。

 そんなに急いでどうすんの?人気が無ければいいのなら、旅館の外ならどこでも良くね?


 俺はロビーでも良いくらいだ。なんなら貸切露天風呂でもいい。服を着たまま足湯するだけでも暖まりそう。

 帰った時の楽しみが増えた。麗奈を起こして足湯だな。


 少し前を歩く姉ちゃん。昔は大きく見えた背中が小さく見える。

 ふはは、俺が大きく成長した証だ。

 4年前とそんなに身長は変わらないけれど、器的なあれだ。最近大人になったんだ俺は。


 舗装された薄暗い下り坂を下り、大きな道路を渡る。その先に見えるは大きな黒。街頭に照らされてないと海には見えねえな。

 昼に魅せられた人は夜もここに来る。ってのはどう考えても嘘だろ。


 砂浜へと降りる階段に腰を下ろすと、姉ちゃんも座ろうとしたので、財布を座布団代わりに敷いてやった。

 地面に当たる面積は減るから無いよりはマシだろ。

 

「姉ちゃんのバストサイズっていくつ?」


「いきなりそんな不躾な質問をするような弟に育てた覚えはないんだけど?」


「4年もあったら人は変わるもんだよ。雪兄は相変わらずノンデリだけど、菜月姉ちゃんは立派に社会人やってる」


「雪人くんは相変わらずなんだね。菜月が働いてるの?あの子おっとりなのにちゃんと働けてる?」


「姉ちゃん。俺に質問する前に俺の質問に答えてよ」


「バストサイズ?Bの71よ。これでいいの?」


「おおー、麗奈と一緒だ。そんなとこまで似てるとは」


「麗奈ちゃんって隣に寝てた子よね」


「そうだよ。青い髪の姉ちゃんに雰囲気似てるやつ」

 

「そこまで似てるかな。悠太は私にそっくりだと思うけど」

 

「顔はそりゃ違うさ。けどなんつーか。似てるんだよね」


「んふ。どこが似てるの?」


「雰囲気と言うか。人に左右されねえとことか」

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