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ボヤっと霞みがかったような意識。目を開けても暗くてなんも見えず。身体を動かそうと身を捩るが柔らかい何かに両サイドから阻まれて動けず。
宴会の途中から記憶がねえ。沙織さんにオレンジジュースを貰ったところからだ。
あれがアルコール飲料だったっつーのか。記憶の無い間に一体何が?いや、考えるのはやめておこう。
きっと酔っ払った俺はいい子ちゃんだったに違いない。普段が悪いヤツだからな。ハハハ。
つーかトイレ行きてぇ。膀胱が破裂しそうだ。
これもきっとアルコールのせい。
隣で寝ているであろう麗奈を先に起こそう。こいつなら寝起きが良いから起きてくれるはず。暗闇に慣れてきた目で左側をサイドを確認する。
いつも通りすやすやと静かに寝ている。布団から肩がはみ出てるのだが、素肌だ。
寝相で浴衣がはだけたのか?でもこいつは姉ちゃんと違って寝相は良い。死んだように眠るとはこの事かってくらい動きが少ない。
視線を少し下にズラす。
「……っ」
あっぶねえ!漏らすかと思った。
何故!?なんで何も身に付けてないの!?
ピンク色が、肌色が、幸せな光景が布団の中に溢れてて、最高の眺めだった。
不思議な事に右腕にも素肌同士が当たってる感触がある。
なんだこのラッキースケベ。つうか今日多すぎじゃね?
占い師に占って貰ったら絶対女難の相が出てるだろ。
違う。俺はシスコンだけど、実の姉に手を出すようなやつじゃない。
もし、姉ちゃんと麗奈と……そ、そういう事をしてしまったんだとしたら、それはアルコールのせい。駄目だ。酒のせいにして現実逃避しようなんて虫が良すぎる。
男として責任を取らなきゃ。朝になったら親父に電話で報告する。
姉ちゃんを傷物にしたとあらば、殺しにくるかもしれねえけど、産まれてくる子供の為に殺されてやる訳にはいかねえ。
親父は返り討ちだ。必要とあらば、2人を連れて駆け落ちをする。
それから真姫ちゃんと、葉月姉ちゃんの墓前に報告だ。
幽霊は信じて無いけど、真姫ちゃんの墓の前で土下座報告。娘さんをボクに下さいならぬ。お姉ちゃんをボクに下さい。
男としての責任と親としての責任。それも2人分。
養っていける甲斐性は無い。でも偉い人は言いました。
根性と気合いで何とかならないこともなんとかする。俺が食えなくても2人と産まれてくる子供達には不自由させねえ。
となると学校はやめて働かなければ。蓮さんには学費も出して貰ってるのに無駄にさせちまう。これも謝罪だ。
謝罪ついでに小間使いでもなんでも良いから働かせて貰うなんてどうか。
考えが甘い。俺に告白してくれた人達を裏切った。本来死すべき人間がこの街に居るべきじゃない。
「んふ。何を小難しい顔してるの?」
今後について悩んでるのに、話しかけてくるなよ。葉月姉ちゃん。
「葉月姉ちゃん!!!!?」
「しーっ。声が大きいよ」
そんなことを言われたって大声を出すなって言う方がおかしい。
「あ、これは夢か!」
合点がいった。これは欲求不満な悠太くんが見てる夢なんだ。
だから麗奈も姉ちゃんも裸なんだ。
それって深層心理で俺は姉ちゃんも求めてるってこと?
度の越えたシスコンやろうってことか!
「顔がうるさいよ。浮気者。残念だけど、本当に残念だけど夢じゃないよ。これは現実」
俺を冷たく突き放す葉月姉ちゃん。生前にこんな事は1度もなかった。
姉ちゃんはいつも暖かくて、優しかった。菜月姉ちゃんと違って柔らかさには少々欠けるけども。
「何言ってんだよ。姉ちゃんは死んでる。だからこれは夢だろ?」
そう。だから今俺を見下している葉月姉ちゃんは、夢の中だけでも性欲を満たそうとした俺を、咎める為に俺が夢の中に召喚した存在だ。
言わば俺の善の心。姉ちゃん安心してくれ。姉ちゃんの教えは今も俺の中に生きているぞ。




