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 砂浜で交わした言葉を反故にするなら今しかない。


「じゃあ、さっきの願い事うんぬんも無しってことでいいですか?」

「うぐっ」


 途端に苦虫を噛み潰したような顔をする。麗奈の手前強く出られないのが見え見えだ。

『何それ?"(∩>ω<∩)"』


「いや、姉ちゃんに潰された俺を助ける事の交換条件でな?願い事を1つ叶えなくちゃいけないんだ」


『それは約束だから聞いてあげないと』


「お姉ちゃーん!」


 沙織さんが麗奈の腰に抱き着く。


 ダメか。逃れられんか。


「でも、そんな無理なお願いするつもりじゃないんですよ〜」


「沙織さんの目の前で雪兄とキスとか無理っすよ」

「ぶは!雪悠!子宮に効くー!」


 鼻血を吹き出し、ちょっとエッチなワードを叫び、床でくねくねと見悶える沙織さん。淑女が台無しだ。


「けど、今の推しは、違うんですよ〜」


 気絶まではしなかったようで、すぐ立ち上がる。


「ちょっと夜に肝試しでもやろうと思いまして〜。ほら、うちの若い衆はお化け役というより」

「拉致監禁事件っすね。下手すりゃ逮捕される人間が出そう」


 現地住民の方々にたまたま遭遇したら、通報待ったなし。

 翌日には新聞に掲載される。


 ――山本組沙織派 静岡の山中にて婦女暴行か。


 笑えねえ〜あはは。

 ならこの俺たちがお化け役を買って出た方が安全だな。

 あ、でも、撃ち殺されたりしねえか?特に目の前の人に。


「顔が引き攣ってますけどもしかして悠太くんお化け苦手です〜?」



「馬鹿は休み休みお願いします。生きてる人間の方がよっぽどこえー」

「間違いないですね〜うふふ」

「あはは!」

『(・∀・)ケタケタ』


「沙織さんこそ。幽霊とか苦手だったりして」


 額にコツンと、銃口を押し付けられた。相変わらず拳銃を抜くのが早い。

「何度も沙織さんが拳銃を抜く姿は見てきたっすけど、向けられるのは2回目か」


 こりゃやぶ蛇だったか。失敬失敬。

「私が幽霊怖いなんてあるわけないじゃないですか〜馬鹿にしないでくださいよ〜」


 いつものニコニコ笑顔。目は笑っていない。


「やだなー。馬鹿にしてるわけないじゃん。魔女と恐れられた貴方が幽霊なんぞ怖がるわけないでしょうに」


「そ、そうですよ〜私は幽霊なんて怖くありません。まったく、あまり年上をからかいすぎると、額に風穴空けちゃいますからね」


 銃口が退けられ、安堵の表情を浮かべたのは沙織さんの方。よっぽどプライドが高い。


「そりゃ煮えたぎりやすい頭に冷却機能が備わって良いかもしれないっすね」


 冗談を重ねる。たまにはこう言うスリルを味わうのも楽しい。


「冗談ついでに。あの海、実は出るらしいですよ」

 

 沙織さんの肩がピクリと跳ねる。口の端がヒクヒクと引き攣っている。

 この人に怖いものがあるなんて正直驚きだ。


「悠太くん。ここの海に来たの初めてですよね。作り話ならつまらないですよ〜」


「地元の人から聞いたんですよ。何やら海に呼び込む幽霊が居るとか」


「なんでそんな話を悠太くんが知ってるんです〜?」


「俺が海に呼ばれたからです。麗奈が来てくれなかったら俺」


 グッと押し黙り、その先を濁す。


「ひえ……や、だなぁ。綺麗な海に見蕩れすぎてたんじゃないですか〜あはは」


「浅瀬ならまだしも。泳げない俺が、肩まで海水に浸かるほど自然に、深いところまでいきますかねえ」


『お姉さんが声掛けなかったら。もう一歩踏み出してた。だからお姉さんは今日1日君の隣を離れない』


「ありがとうな。昼に呼ばれた人間は夜も呼ばれるとか。そしてそのまま」


「……幽霊なんていません!けど、悠太くんに何かあっては保護者責任になるので肝試しは中止しましょう!やめです!やめ!悠太くんも怖いでしょうし」


 怖がってるのは沙織さんだ。間違いなくこの人が1番怖がってる。


「俺は怖くないんで、やってもいいですよ?肝試し。海に近寄らなければ良いんでしょ」


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