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 赤くなった腹部にはアロエ成分入りの軟膏を塗った。

 海に来て怪我人になっちまうなんて俺はなんてついてない男なんだ。


 紫外線も、潮風も、海水も染みるから、沙織さんにお願いして旅館へと送って貰った。

 海から旅館はそれ程遠くはなく、徒歩でも行けるくらいの距離だった。どっちみち今日1日は治らねえから海に戻ることはねえだろうけど。

 それよりも部屋の広さだ。

 家族ごとに借りてもらった部屋は、和室で俺と姉ちゃんと麗奈の3人で寝るには広すぎるほど。

 窓から見える景色も格別で、ここからみんなが泳いでいる海が見える。

 そんな部屋のど真ん中に、贅沢にも布団を敷いて、寝転がっている。

 冷房をガンガンに効かせてだ。


「俺は一人でも良いからお前は海に行ってこいよ」


 そしてそれについて来たのが、海を1番楽しみにしていたはずの麗奈だ。俺の隣に座り、持ってきていた本を読んで大人しくしている。

 

 後酔いつぶれた姉ちゃんもいる。姉ちゃんは寒がりだから、冷房の当たりづらいところに寝かした。


『お姉さんは君と泳ぎたかった( *¯ ꒳¯*)』


 布団で仰向けに寝っ転がった俺の顔の上に現れたスマホにはそう書いてあり、申し訳ない気持ちが混み上がってくる。


「わりぃな。俺も泳げるようになりたかったよ」


『お姉さんも油断してごめんね。1番近くにいたのはお姉さんだったのに』


 油断とか全く関係ないだろ。

「いや、麗奈は悪くねえ。悪いのはさおりん」


「誰が1番わるいんですかー?」


 全身の毛穴が引き締まるような、恐怖の象徴とも言える声が襖の奥から聞こえてきた。


 げっ。海に戻ったと思ってたのに居たのかよ。


「姉ちゃんの声にはその場を和ませるチル効果があるからな。誰も動けないのは仕方ない。よって麗奈は悪くねえ」


 無視だ無視。

「無視する気ですね〜。折角ジュース買ってきたのに。よっと」


 言葉の通り、ジュースを握りしめた、普段着姿の沙織さんが襖を開けて入ってきた。


「どれ飲みます?」


 ジュースは、おしるこ、オレンジジュース、コーラ、水。


「オレンジジュースで」


『お姉さんはコーラ』


 麗奈は炭酸が苦手だ。けど、酔いつぶれた姉ちゃんの為に水という選択肢を放棄したのだろうと思う。


「このままだと菜月さんがおしるこですけど〜」


「沙織さんがおしるこを飲めばいいと思います」


「この暑い夏におしることか頭沸いてるんですかぁ〜?」


 なら頭が湧いてるのは貴方です。なんで買ってきた。

 もしかして、ドジっ子しちゃったのかも。そう思えば可愛い。


「金出すんでもう一本買ってきます?なんなら俺行くけど」

『おしるこは頭が湧いてる沙織が飲むから大丈夫だよ』


 いつもと違いやけに凄む麗奈。


『沙織。買い間違えたの?それともイタズラ?』


 やべ。怒りのオーラが滲んでる。何がそんなに麗奈を怒らせた。

「あ、いや、買い間違えです」


 間延びした語尾を忘れた沙織さんの額から、冷や汗がたらりと伝う。


 だが、嘘だ。目が泳いでる。イタズラって言ったら怒られるのを察したとみた。麗奈の怒りに臆したな、さおりん。


『お姉さん。お家にお金が無かったからこういうイタズラ許せないの。もう一度聞くけど、買い間違えたんですよね?』


 敬語麗奈こえー。俺がやられたら1週間は寝込むかも。


「出来心で……すみません」


 深く深く反省したまえ。

 この程度のイタズラ、友達同士ならたまにあるけど、麗奈にはしないように気をつけよう。

 何がその人の地雷になるか、分からないものだ。


『次は無いからね。分かった?』


「はい。ごめんなさい。おしるこは私が飲みます」


 沙織さんが頭を下げた。


 この瞬間俺の中の強キャラランキングから沙織さんが転落し、麗奈が浮上してきた。

 ちなみに蓮さんが1番強い。次に琥珀さんと雪兄。


『反省したなら許す。いいよー。そのおしるこはお姉さんが飲むから頂戴』


 そう言って沙織さんの頭を撫でるお姉さんこと麗奈。


「お姉ちゃーん!ありがとうございます〜!」


 沙織さんも、余りある麗奈の姉力に屈したようだ。


 

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