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この人にも旅行を楽しんで欲しい。
「じゃあ初鍛錬は帰ってからだな。お言葉に甘えて今回は君との新婚旅行を楽しむとしよう」
「どこの世界に友達みんな連れて新婚旅行に行く奴がいるんすか。つーか結婚してねえ」
「はい、悠太。次のお肉ですよー」
「おお、ありがと。あむ」
なんか餌付けされてる気分だけど、空腹には逆らえない。
麗奈も食わせてもらってるから良しとしよう。
次が焼き上がるまでの我慢だ。
「三姉妹みたいね。千秋ちゃんと、悠太くんと、麗奈さん」
「千秋も家族みてえなもんだしなー。つーか兄弟だろ。」
親に捨てられたもの同士、こいつには仲間意識を感じちまうんだよ。
俺と親父はまんまと俺が騙された形だけど、それでも幼い頃の積み重ねがあるから、俺は親父との間にある壁を直ぐには取り除こうとは思わない。
『千秋はお姉さんの妹だよ。ねー』
「お姉ちゃん!」
俺の前で2人が抱き合う。あー、背景に綺麗なユリの花が咲いてやがるぜ。
酒が飲めるならこれを肴に1杯飲みたい。ちくしょう、未成年ってのが悔やまれる。なら目の前の光景をオカズに白ご飯を食べれば良いじゃないか!
「羨ましいですか?悠太。お姉ちゃんは私のお姉ちゃんですが」
いやいや、まったく。君たちはその調子で百合百合してて欲しい。
席どこうか?間に男が挟まってたらおかしいでしょ?俺邪魔でしょ。
「馬鹿言え。ガキとの触れ合いに嫉妬するほどガキじゃねえよ」
頭の中で思っている事をそのまま口に出せば、唯と、琥珀さんに失望されてしまう。だから出来るだけ素っ気なく返答した。
「百合が好きなら素直に、いいぞもっとやれくらい言えばいいと思うのだけれど」
手遅れだったようだ。唯の言葉に続いて、琥珀さんも頷いた。
まあ、涼夏と唯の百合を眺めて居たこともあったから、当然か。
「そうだぞ少年。好きな物は好きと言っていいんだ」
琥珀さんのその甘言は罠だから、首を振って否定させて貰った。
好きな物を好きと言った結果。幼なじみとクラスメイトにバスで見下されることとなったのだ。
あの苦し紛れの発言は、周りが気にしなくても、俺自身が黒歴史として、俺の脳内に刻み込まれた。
ふとした時に思い出して、枕に顔を埋める夜がくるだろう。
あの場にいないグラマラスを選んだ結果。実姉と未亡人とヤクザになっただけだ。
別に併せ持った属性に興味はなく、見た目の話をしていた筈なのに勝手に失望しやがって。
ちょっと腹たってきた。百合を見て一旦チルしよう。
戯れる麗奈と千秋に目を向ける。
俺にガキと悪態をつかれて、俺に殴り掛かろうと暴れる千秋を麗奈が抱きしめ止めて居た。
これだからガキは。千秋ってそんな武闘派だっけ。
うん。ただ、まあ、癒された。
「悠太のアニキ!肉焼けましたよ!」
山本組の若い衆の木村さんが肉を運んできてくれた。
「めっちゃ美味そうっすね!」
ピーマンと玉ねぎ、美味そうに焼けた肉を綺麗に盛り付けられた皿が俺の目の前に置かれた。
肉だけをめっちゃ盛り付けられた皿も良いけど、少しでも野菜が一緒にのってると体にいい気がするよな。
「アニキ。今日のお召し物も大変似合ってますね!」
「あ、それは嬉しくないっす」
「でも、今日居らしてるどの方々よりも輝いて見えますよ」
いくらなんでも、ありえねえ。
なんだ。俺は新興宗教の神じゃないんだから、本物よりよく見えるなんて事はない。
涼夏の方が可愛いし、麗奈や唯の方が綺麗だ。
千秋には勝ってる気がするが、それも嬉しくない。
だって俺、男の子だもん。
「目が腐ってんじゃないすか?」
「いえいえ、羽鳥さんや伏見さんも言ってましたので間違いないかと」
「どっちも信者じゃねえか。せめてお宅のお嬢さんを一番に持ち上げた方がいいんじゃないすか?」




