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「まったく、私の旦那様はすぐ他の女性といちゃこらするんですから、浮気は置いといて将来私と継ぐ店が無くなったらどうするんですか」
何言ってんだこいつ。
「ほらほら、この街の平和を守っておつかれでしょう?はやくお風呂に入って一緒に寝ましょう」
そう言いながら俺の手を引いて桜亭へと入ろうとする千秋。
『こらこら。お姉さんを無視してお姉さんのを無断で連れていこうなんて許さないよ』
すかさず空いた方の手を麗奈が掴んで阻止。
『の』と『を』の間には何が入るんですかねえ。
……キス、したんだよな。
「なんで顔を赤くしてるんですか……もしかして」
千秋がキッと麗奈を睨み付けたら、麗奈さんは勝ち誇った笑み(ぎこちない)を浮かべてドヤった。
顔、赤くなってたのか。俺、わかりやすすぎね?
「なっ!えっ!麗奈お姉ちゃんが笑ってます!可愛いです!違っ!悠太の旦那さんは私ですから!」
おお、麗奈の表情見て驚いてる驚いてる。驚きついでにこんがらがってるぞ。
正しい文脈は私の旦那さんは悠太な。事実は違うけれども。
『私のお嫁さんだからね( *´艸`)誓いのキスもしたから(ᵔᗜᵔ*)』
いやにあっさりとした暴露だった。
俺にとっても!!!
「えええええ!!!キス!?ってなんで悠太もびっくりしてるんですか!」
「あ、いや、な」
『お姉さんが勇気を振り絞ってキスしたのに伝わってなかったの?(꒪⌓꒪)お姉さん検定落第だよ』
勇気振り絞ったって言われても、怒り気味の麗奈に無理矢理キスされたんだぞ!
「じゃあお2人は今日から付き合い始めた感じですか?」
いいぞ千秋!無邪気を盾に俺の聞きたかったことをどんどん聞いてくれ!
『それはどうでしょう……ね( •ω- )☆』
ここで俺に振るのかよ。
これは俺に決めさせてくれようとしてるんだ。
俺は麗奈の事が好きだ。童貞くせえかもしれねえけど、一生添い遂げたいとも思ってる。
俺はめんどくさい奴だ。自分の信念を曲げたがらなければ、姉ちゃんそっくりの見た目から目を逸らして現実を直視しようともしない。
いや、見た目の事はこれからも否定させてもらうけど。
こんなめんどくさい俺の傍にずっと一緒に居てくれるって約束してくれた。
あれ?そもそもこれって告白……?麗奈って途中から好意を伝えてくれてたんじゃ。
「ごくり」
千秋の息を飲む音が聞こえた。麗奈も真っ直ぐ俺を見たまま微笑みを崩していない。
お前なら、俺の答えも分かってるよな。
俺も麗奈の瞳を真っ直ぐ見つめる。
「今……俺は、お前とは付き合えない」
俺はまだ、涼夏にも、唯にも、千秋にも答えを出していない。
心は決まってる。だけど、こんな中途半端な状態で麗奈に告白する事なんて出来ない。万死に値する。
だから、俺は、ちゃんとしてから麗奈に告白したい。
麗奈に行動してもらって、好意をなあなあにして付き合うなんて絶対だめだ。
それじゃ姉ちゃんの遺品を燃やして逃げてた俺と変わんねえから。
「……元々私の付け入る隙なんてなかったんじゃないですか」
酷く落胆した様子で千秋が言った。
お前、本気だったんだな。
「ごめんな。俺は」『そう?悠太は付き合えないって言ったんだよ?』
断りの文言を言おうとしたが、麗奈に口を抑えられた。
「でも、悠太は今はって言ったじゃないですか。その前にも完全にメスの顔してましたよ」
してねえよ。メスの顔なんて。落ち込んでるのに俺を煽る言葉が出てくるなんてなんなんだこいつは。
「もごもごもご」
文句を言ってやろうとしたが麗奈に口を抑えられていて何も言えずに終わった。
『お姉さんと悠太は付き合ってない。なのになんで諦めちゃうの?』
「だって、悠太は絶対麗奈お姉ちゃんの事好きですよ?麗奈お姉ちゃんを見る時いつもメスの顔してますし」
『悠太は千秋の事も好きだよ』




