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「そうだ、麗奈、俺髪を切ろうと思うんだけど…」
そっぽを向いていた麗奈がこちらに向き直る。
いきなり髪を切って男だと認識されて怖がられたら、俺の心が折れてしまいそうだから確認しておくに越した事はない。
『どのくらいにするの?今の金髪ロングでロリお嬢様もいいけどミディアムボブにして、ロリお姉さん路線に転向する?』
どちらにしても女の子なのは変わらないのね…。
「いいや、麗奈が怖くなければ思い切って短髪にしようと思うんだけど」
『似合わないからやめよう、せめて涼夏くらいのショートにして活発ロリにしよう。それにお姉さんはまだまだ君の髪の毛で遊びたい(ㆀ˘・з・˘)』
怖くは無いようだが、説得するのも骨が折れそうだし、勝手に切ると怒られそうだからやめておこう。
ロングなら、まだ伸ばしっぱなしで通じるかも知れないけど、麗奈の御所望通りにミディアムボブあたりにしたら確実にそう言う趣味だと思われそうだ。
「切るのはやめておくよ」
『それが懸命だね(*゜▽゜*)てことで今日も髪いじらせて!』
「流石にここではやめてくれ、看護師さんに見られたらそう言う趣味だと思われるぞ」
どうせ3日で退院するのだから、そういう噂を立てられても気にはならないのだが、問題はここが山本さんと繋がりのある病院だからだ。
もし噂があの人の耳に入れば、あの人の事だ、即刻麗奈や琥珀さんと結託して俺を完全な女の子に変身させて弄ぶこと間違いなしだろ。
『えー!君がお姉さんのお願いを断るなんてΣ('◉⌓◉’)さては反抗期か?』
「なわけないだろ、流石に知らない人に見られるのは恥ずかしいんだよ」
山本さんの事は伏せておこう。
うちに住んでるし、病院にも見舞いに来てるから遅かれ早かれ出会う事になるとは思うけど、少しでも隠しておけばタイミングがずれてあわよくば、出会わない可能性も無くはな……ガチャ
「やほ、面会時間終わったけど知り合いに無理言って入って来ちゃった、家の所為で怪我したんだからお世話くらいしようと思って!」
噂をすればなんとやらだ…。
昼間見た着物姿とは違い一昨日のようなラフな格好に眼鏡をかけた山本さんが病室に入ってきた。
「ほら!おトイレとか大変ですよね…!薄い本でしか見たことないけど私頑張ってお世話します!ぐふふ!それに高校生くらいの男の子って、その…ナニがとは言いませんが溜まるんですよね!そちらのお世話も…経験はないですが家の所為なので、ブヒっ、男の娘のピー!(自主規制)」
おトイレの辺りで嫌な予感がしたので折れた腕を無理やり動かし、両手で麗奈の耳を塞いだが正解だった。
いきなり耳を塞がれた麗奈が不思議そうに目をぱちくりしている。可愛い。
「山本さん、折れてるのは腕だけなんでトイレは大丈夫っす、なので早急にお帰りください」
ここで優しさを見せたら一昨日のように妄想の世界に入り、つけ上がるのは間違いない。
「そんな…折角尿瓶も持ってきたのに!ぐへへ、後生ですから一度だけでも…採尿しまーす!」
とニヤニヤしながら布団をめくり、ズボンへと手を伸ばしてくるので、必死に足で肩を押し返すが徐々に力で押されていく。
涼夏と言い美鈴と言い、琥珀さんにしろ、俺の周りの女性強過ぎない?
段々と押し負け、ズボンに山本さんの手が掛かった時だった。
既に妄想しながら入ってきたのだろう、俺しか見えていない暴走する山本さんに認識されていなかった麗奈が、止めに入って助けてくれた。
ぐっと山本さんの手を掴み、いつもの無表情で、山本さんの目をじっと見ている。
「はっ、私ったらナニを…すみません!」
その目を見て尋常じゃないほど、怒っていると判断したのだろう、山本さんが手を引っ込めた。
妄想の世界から現実世界に帰ってきたようだ。
麗奈も素直に手を離し、スマホを手に取る。
『いくら女の子同士でも無理矢理脱がすのはは良くないと思う\\\٩(๑`^´๑)۶////』
違う違う、違うそうじゃない。
「あ、あれ?悠太くんって男の娘?女の子?あれ?」
おお、無敵かと思われた山本さんを混乱させてる、もしかして麗奈が最強か?
『こうやって、優しく脱がせてあげないと…(//∇//)』
と山本さんに代わり俺のズボンに手をかける、山本さんはそれに対して目を血走らせ、食い入るように見ている。
「そうじゃねえだろ!!!」
ドシーン!
寝返りを打つ事で麗奈の手から逃げたが…勢い余ってベッドから、落ちてしまった。
落ち方が悪かったのか、変な風に足を捻ってしまい、足も変な方向を向いている…。
「ここは病院ですよ!お静か…先生!患者さんが!」
安全な筈の病院で、足までも折ってしまう哀れな俺を看護師さんが急いで起こしてくれ、俺は再び手術室に運ばれるのだった。
そして俺はこの日、この後、今度こそ足までも骨折した俺は麗奈と山本さんの手により男としての尊厳を失った。
山本さんはともかく、麗奈は男性恐怖症じゃなかったのかよ………。
……………………トホホ。