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腹の奥から絞り出すように言った。
歩き去ろうとしていた沙織さんと俺の手を引いて倉庫へと連れていこうとした麗奈の足が止まる。
表紙のイラストも何処と無く俺と麗奈に似てた。タイトルもそんな感じだったはず。
麗奈が読んでたから探し当てた代物だと思って無視してきたけど、まさか目の前に作者がいるとは思わなかった。
「い、嫌だなぁ。騙してなんてないですよぉ〜そう思うのは悠太くんが勘違いしたからじゃないですか〜?」
抑えろ。抑えろ俺。
「でも、官能小説なんて聞いてないぞ」
そうだ。それとこれとは話は別。紙にサインもして契約をしたわけでも無ければ、ただの口約束。
さっきのだって無しにしてしまえばいい。
「だからなんだって言うんです〜?さっきの話しは無しにしたいんですか〜?悠太くんの辞書に二言はあるんでしたっけ?」
逃げ道を潰された。ぐぬぬ、ああ、姉ちゃんに言われたことあるよ。男は1度言ったことを曲げちゃいけねえって。強く真っ直ぐ生きなさいっていってたっけ。
姉ちゃんの教えってよく考えたら俺に対して不利に働くこと多くね?
「……男に二言はねえけど、1つだけ訂正させてくれ。モチーフは晒さないで、二度と性犯罪に巻き込まれるのだけはごめんだ」
それ以外はもう、好きにやってくれ……俺は関与しない。読まない。
「ふふふ、最初から晒す気はありませんよ〜私は配慮の出来る大人ですから〜」
『君は年上のお姉さんってだけでホイホイついて行っちゃいそうだからね:( ;´꒳`;)』
「そんなわけねえだろ」
『どうだか、お姉さんと仲良くなったのも君、難攻不落の琥珀を堕としたのも君。沙織に話しかけたのも君って聞いた。美代子と最初に仲良くなったのも君だよ?シスコンだけじゃ飽き足らず年上好きなの?』
「なんで拗ねてんの?」
『拗ねてないよ(⑉・̆н・̆⑉)』
顔文字が既に拗ねてる。お姉さんのだから弟を他の年上女性に取られたくないとか、そんな感じの独占欲か。
「心配か?」
『心配……してないよ。君の事は信じてる』
じゃあ言い寄られるのが嫌なのか。俺も麗奈が他の男に言い寄られるのは見るのも嫌だから分かるぞ。
「ありがと」
礼を言うと麗奈はこくりと頷いた。
「じゃ、悠太君が年上キラーという事で綺麗にまとまったところで〜行動を開始しますか〜?明日は温泉ですからね!」
すぐに掘り返すな。
『しよう。終わらせて帰ろ!お姉さん温泉好き(*´˘`*)♥』
「おう!それも貸し切りだぞ。貸し切り。俺も安心して温泉に浸かれる!」
『君は男湯に居たら人目を引きそうだもんね( ̄▽ ̄;)』
「そうなんだよ。俺が風呂に浸かってると俺が上がるまでずーっと見てくるおっさんがいてな。それが嫌でずっと風呂はいっててのぼせたことがある」
あの時は大変だった。いつまで経っても出てこない俺を心配した姉ちゃんが店員に頼んで救出しに来てくれてやっと出れた。
その時の俺はもう茹でダコ状態で意識が朦朧もしてたっけ。
『じゃあお姉さんとお風呂入ろう』
「じゃあの意味がわかんねーだろ。貸し切り風呂なんだから人目を気にせず1人ではいるよ」
『わかった(´ー`*)ウンウン』
やけに聞き分けがいい。これは当日警戒の必要がある。
「約束な。1人で入るからな」
予防線を張っておくに越したことはない。
『OK沙織が覗かないように見張っておくね(´◉ω◉` )こんな感じで』
頼もしい。のかな?沙織さんもげって表情で反応したから覗こうとしてたのは間違いない。
「頼んだ」
大きな決意を固めてそうな表情で大きく頷いたお姉さんに俺の温泉浴を任せる事にして、準備に取り掛かることにした。
まずは誘拐された人達に倉庫に戻ってもらった。
どうやら全裸で拘束されていたのは逃げられないようにする意味合いが強いらしいので、心苦しいが下着姿になって貰い、緩めに手や足を縛って隅っこに固まってもらった。
俺はその光景を見ないように、組員の皆さんと陰に隠れてこっそり壁を見つめていた。
勿論肌色の多い光景を見ないためだ。
のりっのりで着替える彼女達に、からかわれたりもした。
だが要注意だ。見ようものなら琥珀さんを使役した麗奈に狩られるし、俺自身後ろめたさを背負う事になる。
だから、古く年数の刻まれたこの壁に出来た染みを見て時間を過ごした。
次に人員配置だが、集まってもらった山本組の皆さん総勢6名には外での偵察に3名。残りの3名は俺の隣で壁を見つめたまま気をつけの姿勢で直立不動を貫いている。
かれこれ30分ほど経っている。




