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怖いことを言うな。切られる事を想像して玉が縮み上がっちまったぞ。
「あのな。俺の顔が姉ちゃんに似てるからってそういう事は言わないでくれよ。俺だって男なんだから普通に傷つくぜ」
「それが付いてるとどうもバランスが悪いのよね。でも気を悪くさせてたならごめんなさい。この件は由奈ちゃんがビキニを着てくれるって事で許してあげてもいいわ」
一瞬許そうと思ったのになんだこいつ。なんで俺が譲歩する側なんだよ。
「俺達の会話も聞いてたのか」
「ええ。まさか涼夏がドMに目覚めていたなんて……最高だわ!」
「そう言うと思ったよ」
『美鈴は分かってない』
麗奈が美鈴との間に割って入りスマホを見せつけた。
「えっ?何がです?」
『悠太からそれが無くなったら悠太は女の子になる。そうしたら少し頭の緩い悠太は恥ずかしげもなくお姉さんの前で裸をおっぴろげても平気になる。お姉さんは悠太が恥ずかしがる顔を見ていたいのに、そんなお姉さんの楽しみを奪うなんて言語道断。万死に値するよ。もし美鈴が悠太のあれをちょん切るなら私は抵抗するよ。琥珀で』
別に女だったとしてもお前の前で裸をおっぴろげて歩かねえよ。そこまで俺の頭は緩くねえ。
「羞恥プレイ……なるほどなるほど、そういう楽しみ方もあったんですね」
感心してんじゃねえよ。
変態同士繋がるところがあったのか、固い握手を結ぶ2人を横目に2歩、3歩下がる。
そして沙織さん達の方へと避難した。嫌な予感がしたからだ。
「あら〜おはようございます〜」
伏見さんは組員さんたちの連絡係をしていて席を外しているようだ。
一見元気なように見える流石の沙織さんも眼鏡の奥で目が半目になっている。
「おはよう。それとお疲れ様っす。特に何も起きなかったみたいで良かったです」
「いやーやっぱり、警戒態勢で寝ずの夜ってのは疲れますねえ〜執筆だったら勢いで乗り切れるんですけど〜」
「沙織さんも眠れなかったんですか?」
「えぇ〜。頭がどうしても戦闘モードに切り替わっちゃって眠れなくて〜目を閉じていても気が休まらなくて〜」
この人ですら真面目に眠れなかったのに、俺は煩悩に悩まされて眠れなかったなんて絶対に言えない。
「なので明日辺り温泉とかどうですー?」
「温泉は嫌だ」
誰がなんと言おうと絶対に嫌だ。
「えーいいじゃないですかぁ」
「嫌なもんは嫌」
「どうしてそんなに温泉を毛嫌いするんです〜?」
「……見られるから」
「……あぁ」
俺が姉ちゃんに似てるからってそう言う目で見てくるから昔から温泉は嫌いだ。
くっそ気分悪い思い出しかない。
「なら貸切風呂ならどうですか〜?麗奈さんとか温泉好きそうですよ」
貸切温泉……だと!
「少し遠出して富士山の見える温泉旅館で貸切風呂。料理は地魚をふんだんに使った海鮮。昼間には海でバーベキューなんかも捨て難いですねぇ。あ、やっぱり夏なんで花火もやりましょうよー」
貸切温泉。海鮮。海。バーベキュー。花火。
夏の欲張りセットじゃねえか!
「行く!行きたい!……けどそんな贅沢する金が」
金が無いわけじゃない。毎月貰ってる小遣いも貯めてある。
ただ、姉ちゃんの稼ぎで養ってもらってるのに贅沢をしていい身分なのかと考えると、違う気がしてしまう。
姉ちゃんは優しいから良いって言ってくれるとは思うけど、そう言うのは自分で稼いでから行きたい。
「お金の心配なら入りませんよー。この沙織さんが全員分面倒見ましょう」
「いやいや、そこまで甘えられませんよ」
「なぁに言ってるんですかぁ私達は一蓮托生。生きるも死ぬも一緒でしょう。それに」
それに。なんだ?
「私のしのぎが順調でしてぇ。その恩返しの一環です〜」
まるで俺のおかげみたいな言い方だけど、俺なんかした?
「俺の写真とか売ってるわけじゃないっすよね?」
「いえいえ、悠太くん本人には何も関わりありませんよー。ただモチーフというかなんというか。内緒……ですぅ」
モチーフ。執筆の事だろうか。




