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蓮さんに聞こえるように声を上げた。
それから後方で縛られている涼夏と美鈴に手で、しーっと合図を送る。
良かった。2人とも服を着てる……無事だったんだ。間に合って、本当によかった。
「ちょっと!娘に何するんですか!」
蓮さんの声だ。
「おっと奥さん暴れない方がいいぜ。後ろにもう1人居るんだ。奥さんが暴れたら後ろの嬢ちゃんがどうなるかわかるな?」
下卑た声。俺の第二の母ちゃんをエロい目で見た事は絶対に許さん。
蓮さんに指一本でも触れたってわかった瞬間。この小窓をあけて、俺がお前を成敗してやる。
「お願い……娘に乱暴しないでぇ」
「そりゃ奥さんの態度しだいだねえ。楽しませてくれりゃ娘にはなんもしないでやるよ」
「そんな……ナイフなんか突きつけて、何をさせるつもりなの?」
「奥さんが変な気を起こさないようにさ。本当ならすぐにでも抱きてえとこだが、生憎車で女を抱く趣味はねえ。臭くなるからな。だから着くまでは大人しくしとくこった」
匂いに弱いのが幸いしたか。お前命拾いしたぜ?
「わかったわよ」
前の方も上手くいったようだ。車が再び走り出した。
くれぐれも丁寧に扱ってくれよ。その女性は怒らせたらヤバい。
しばらくしてエンジン音が無音の車内に響き始めた。
少しの音を出したところで運転席には聞こえないだろう。前の話し声も聞こえなくなったし。
もう喋り始めても平気か。
2人の縄を解いてやり、猿轡を外す。
「助かったわ。本当に怖かった」
美鈴が言った。お前気が強いだけで女の子だもんな。
「涼夏を守ってくれてありがとう」
頭を下げて謝罪をする。
お前が居なかったら行き先を把握する事は愚か、ここに駆けつける事もできなかった。
「ね〜。本当に怖かったよ〜覚悟はしてたけど本当に拐われちゃうなんてね」
おちゃらけた声で言ったのは涼夏だ。でも気丈に振舞っているが指先が震えている。
俺たちが来なければ数時間後には犯されていたかもしれないから無理もない。
「悪い。俺がもっとちゃんとしてたらこうはならなかった」
「かもしれない。でしょ。今回は私らの不注意だから。でも?まぁ?もし?悪いと?思ってるなら……」
なんだよ、気持ち悪い奴だ。ニヤニヤしやがって。
「今度由奈ちゃんとデートさせなさいよ」
「あ?」
思わず凄んじまった。
「きゃー。すずかー。ヤンキーこわいー」
棒読みじゃねえか。
「オーよしよし。体を張って私を助けてくれた美鈴。可哀想に。可愛い男の娘とデートがしたいんだね?」
「そうなの、でも、あの由奈ちゃんの皮を被った男が凄むのー」
「体を張って私を助けてくれたのにねーっ。私も悠くんとデートしたいかもー。じゃないと誘拐されたことがトラウマになりそー」
お前もかよ。
なんとも緊張感の無い奴らだ。今さっきまで危険に晒されていたのに。
まあ。でも、これくらいふざけてないと平静を保てないんだろう。
「わかった。だけど1回だけだぞ」
「言ったわね?明日になったらやっぱなしとか駄目だから。精一杯私にエスコートされて夜は精一杯ご奉仕しなさい?」
「わりぃ。明日じゃなくて一生ごめんなさいしてもいいか?」
「いやよ。もう決めたんだから。男の娘に二言はないでしょ?」
「美鈴。流石に夜の御奉仕は……まだ早いと思うんだけどねぇ。たはは」
「あら、そんな事ないわよ。大抵の子は1年生の夏休み明けには雰囲気変わってたりするものよ」
「おい、何で得た知識だよ」
「青い鳥のアイコンのアプリね。後はマンガとか」
「その知識は嘘も混じってるから信憑性にかけるんだよ」
「そうね。でも、私は由奈ちゃんの処女が欲しいわ」
「貫かれるのそっち!?」
おい!ツッコミたいのは分かるけど大きな声をあげるな!
……聞こえてないよな。
そろりそろりと小窓に近づく。
「今後ろで女の声が聞こえた気するんだが」
「さあ、聞き違いじゃないかしらぁ?それより本当に娘は無事に帰してくれるのよね?」
「聞き違いか。最初に言っただろ?あんたが言う事聞いてくれたらそのつもりだよ」
蓮さんが話しを逸らしてくれたようだ。
ホッと胸を撫で下ろす。
「茶番は終いだ。緊張感が抜けちまう。由奈ちゃんがデートしてやるから静かにしていてくれ」
「そうね。わかったわ。涼夏は由奈ちゃんと私と何処に行きたい?私はプールとか行ってみたいわね」
「んー。プールもいいけど私ね。服買いに行きたいなぁ。由奈ちゃんに可愛いの選んであげるの」
こいつら俺の言ったこと本当に分かってんのか?
「いいわねそれ。午前中に服を選んで、ついでに水着も買ってそれからプールに行くのはどう?」
「いいね。じゃあ美鈴はどんな水着着せたい?」
「そうね。パレオの着いたビキニとかいいと思うわ。清楚な感じの」
「じゃあ、白。だね?」
「黒も捨て難いわよ」




