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「悠太おめぇさっき大したことないスピードって言ったよなぁ」
「……大した運転スキルだなって言いました」
「本当だろうな?」
「YES!神に誓います!」
「そうか。じゃあもっと飛ばしても平気だな!」
ちょっと待ってよおおお!そりゃあんまりだよお!
「いえ、それ以上飛ばすとですね……後ろの2人が死んでしまいます」
姉ちゃんと麗奈、涼夏と美鈴の命は俺が守る!
「あ?」
蓮さんは短く唸ると、体を捻って後ろを向いた。足はアクセルを限界まで踏み込んだまま。
「待って待って前向いてえええ!死ぬぅうぅ!」
「大袈裟だ、ちびガキ。2人仲良く気持ちよさそうに寝てるじゃん。あー。昔の血が騒ぐぅー!今日だけ紅蓮の特攻隊長の復活だぁああ!!!」
瞬間的にグンと座席に磔られて、ぐんぐんとスピードメーターが伸びていく。
もうこの人には話しかけんとこ……集中させねえと、殺される。
『ちょっと伏見!何してるのですかー!メーター振り切れてますよ!』
『紅蓮の特攻隊長と来たら血濡れのお蓮……お嬢!このバトル負けられやせん!』
そっか。君もそっち側なんだね、伏見さん。
『知らないわよそんなバトル!!!スピードを落とさないと撃ち殺すわよ!?』
おお、沙織さんの口調が変わった。
『これに関しちゃお嬢に言われても漢伏見。引くことはできやせんぜ!』
「おいちびガキ!今電話先で伏見って言ったな?」
「ああはいそうです」
「てめぇ山神の伏見か!?」
『久しいなぁ!血濡れのぉ!負けた借りを返させてもらう!』
「ああ!?てめぇは雑魚なんだからひっこんどけよ!」
通話を切った。これ以上うちのお蓮さんを刺激しないでください。
あぁ、どっちも地獄に変わってしまった。
神様。どうかこの愚かな俺達を無事に目的地に運んでください。前に信じて無いとか思ってすみませんでした。
俺が目を閉じて祈りを捧げていると。
「みぃつけたぁ」
ニタニタとしたテンションで蓮さんが言った。
目を開けてみると、蓮さんが獰猛な笑みを浮かべて右手で思いっきりハンドルを叩いた。
当然なるクラクション。視線の先には探していた。黒のハイエース。
一瞬で血が沸騰し、怒りが込み上がる。目を見開いて感覚を研ぎ澄ます。
……ぶち殺してやる。
「いくぞクソがきぃい!!気張れえええ!」
蓮さんが吠えた。
「おう蓮さん!」
合わせて俺も吠え、全身に力をこめて気張る。
みるみるうちに黒のハイエースが大きく視界に飛び込んでくる。
車のタイヤからスキール音が聞こえ、体が慣性の法則に従って、シートベルトに押し付けられる。
このまま行ったら当たる。前の車もブレーキランプが着いて急ブレーキ気味に車体が前のめりに浮き上がる。
当たる!と思った直後だ。視界が何周も回転して、気付いた時にはハイエースの前に出ていた。
車のヘッドランプで爛爛と運転席の男を照らしている。
前に乗ってるのは1人。後ろは鉄の板で遮られていて前からは見えない。よく目を凝らしてみると、小窓がついていて、そこを開けて後ろの様子を確認しているようだ。
男が後ろに向けて何かを言ってるのが分かる。
男が話を終えて窓を閉めた頃に、蓮さんがシートベルトを外して降りていったので俺もそれに習ってついて行く。
ハイエースの運転席に回ると、窓を少しだけ開けて、不審なものをみる様な目で男がこちらを見ていた。
蓮さんを見てすぐに窓を開けたな。女だと思って油断してやがる。
「すみません〜ブレーキが壊れてしまったみたいでぇえ」
男は泣きそうな顔を作り、男性に媚びるような甘い声で謝る蓮さんに品定めをするような目を向けた。
「奥さん。整備不良の車に乗ってちゃ危ないよ」
間違いない電話で聞いた声だ。
整備不良であんなスピードが出るかよ。
「ごめんなさぃ。でもぉ本当に怖くってぇ」
「そりゃこんな一般道をあんな非常識なスピードで走ってちゃこえーだろーよ」
「60キロくらいだったんですけどねえ。操作効かなくなっちゃってどうしよーって焦ってたらもうぶつかりそうで」
何周目の50キロだろうな。




