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ゆっくりと目を開けると…目の前には男の腕を掴んで拳を止める雪兄と、冷たい目で男を見ている山本さんがいた。

「お、お嬢!」

男達は山本さんを見るなり、警戒を解き、跪いている…お嬢?

「こちらは私の友人なのだけど、この子をここまでにしたのはお前かい?」

一昨日会った優しくて天然な山本さんとは雰囲気が違い、冷たいオーラを纏っている。

「悠太…無茶しやがって……」

「雪兄…」

雪兄に抱き締められ、俺はそこで初めて自分が死や、同じ男に好きなようにされた恐怖に怯え、体が震えている事に気がついた。

「こいつらが、先に乗り込んできて舎弟達をボコったんですよ!」

「私は誰がやったか聞いてるんだけど?」

慌てた様子で男が言うが、山本さんが全く聞き入れようとはしない。

その場にいるヤクザ全員が黙り込む。

「兄貴ぃ!連れてきやしたぁ!……ってお嬢?」

そこに先程指示を受けた、男の舎弟が、衣服が乱れ、顔には大粒の涙を流している、宝井さんを連れてやってきた。

「中村、今すぐその子を離しなさい……詰めるわよ?」

「わかりやした…」

中村と呼ばれた男が、宝井さんの拘束を解くと、泣きながら俺に抱きついてきた。

腕が痛むが、自分自身も恐怖から立ち直れず、折れてない片腕で抱きしめ、呆然としている。


「ごめんなさい悠太くん、落とし前をつけさせるから、その男から何をされたか教えてくださる?」


未だ冷めやらぬ恐怖に耐え、口を開く。

「っ、はぁ、下腹部を弄られて……男だってわかったら……た、タマを潰して……海外に売るって……」

聞いていた宝井さんの抱き締めてくる力が強くなる。

「へぇ、竹田、恥を知りなさい」

ドチュッ山本さんのつま先が男の股間に突き刺さり、男は白目を剥き、泡を吹いて崩れ落ちた。あれは完全に潰れたな…。

「他には?」


「…腕を折られました」

「そう」


その辺に落ちていたバットを、拾いあげると、2度、容赦なく男の腕に振り下ろした。

泡を吹いて倒れていた男が魚のようにのたうちまわり、ピクピクとしている。


「あなたもごめんなさいね、乱暴な事はされてないかしら?」

冷たいオーラを放っていた山本さんが、宝井さんに目線を合わせ、申し訳なさそうな表情で聞く。

「はい、でも、変な事される寸前…でした」

「わかったわ、ここから先はあなた達に見せるわけには行かないわ…後で改めて謝罪に伺わせてもらうから、先にこの子達を連れて病院に行っててくれるかな、この病院に行って、うちの名前を出したらすぐ診てくれるわ」


「わかった。悠太、きみも行くぞ」

雪兄が差し出された名刺を受け取り、俺と宝井さんを連れて歩き出す。

「待ってくれ雪兄、そこで倒れてるの、俺と一緒に来てくれた先生なんだ…担いでくれる?」

「わかった、じゃあ行こう」

立花先生を軽々と抱える先を歩く。

俺も宝井さんを抱き締められたまま、後をついていき、雪兄の車に乗る。


「ごめんなさい、巻き込んで…」

未だ泣き止まない宝井さんが謝ってくる。

「いいんだ、無事だったんだから」

強がって答える、最悪死んだって構わない、と思いながら挑んだわけだが、この結果。

辱めを受け、殺されるどころか体を良いようにされ、海外に売られそうになり、泣いてしまった。

雪兄と山本さんが来なかったら、あの日の惨劇の繰り返しだった。


「雪兄はなんでここに…?」


「山本さんがうちに飯を食いにきてて、その時に丁度涼夏から電話が来たんだ…それよりもお前、何であんな無茶をした?」

ミラー越しに雪兄が怒りの表情を浮かべている。

そりゃそうだよな、ヤクザ相手にこんな大立ち回りやらかして、大怪我してるんだ。

逆の立場なら俺も怒ってる。

「相手が誰でも…もう身近な人が居なくなるなんてこと……繰り返させたくなかったんだよ……」


「だからってなあ、先生も巻き込んで、相手はプロだ、2人じゃどうしようもないって事くらいわかるだろ…下手したら2人とも殺されてたんだぞ!あんたも教師なら止めろよ!」


雪兄の言っている事は至極真っ当だ。

2人で正義感を振りかざして立ち向かったは良いが結果はこの様…立花先生も大怪我をしている。

「すみません…俺は教師失格だ…だけど、あいつの気持ちもわかってやってくれ。大事な友達を守りたかったんだ…」

立花先生…

「わかってるさ!それはわかってる…でも正義感で死んでいったならこいつやあんたは本望かも知れない…でも残された方はどうなる?ましてやこいつの姉貴は四年前の事件で姉貴を亡くしてるんだぞ?今度こそ心が壊れちまう!」

そうだ、ここで死んでたら、今度こそ涼夏や姉ちゃんは…俺は浅はかで愚かだ…。


「雪兄、悪かった…」


「お前の気持ちはわかる、でも正義と無謀は違う。次こう言った場面に遭遇したら、まず俺に相談しろ」


「わかった」


「わかれば良い、もう少し我慢してろ、もうすぐ病院に着く」


雪兄が言ったのを最後に車内がどんよりと鎮まりかえる。

怪我の度合いからして入院は免れないんだろうな…何が俺に任せておけだ…涼夏に顔向けできねえな。


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