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既に足をぶち折ったのだ、脅しでは無い事は男も分かっているだろう。
痛みに耐えながらコクコクと頷いている。
「今から手を離すけど大声を出すなよ?俺はやるって言ったらやるからな」
頷いているので手を離してやる。
「お前、うちがなんの事務所だかわかってんのか……?」
悪いけど質問するのはこっちなんだよね。
「知らないよそんな事、余計なこと話してたらやるよ?宝井さんはどこに居んの?取り返しにきたんだけど」
これ以上余計な事を喋らせないよう、顔の横にバットを叩きつける。
「事務所の奥…組長室だ……ヤクザに手を出して生きて帰れると思うなよ…」
「よし、よくできました、じゃあ終わるまで、ここに居て大人しくしとけ、先生、こいつトランクに、しまっときましょ」
「あぁ、今開ける…」
男を担ぎあげ、開けてもらった立花の車のトランクに男を転がし、再度閉めた。
幸い男も、すぐに助かると思っているのか抵抗が無くて助かった。
「お前容赦ないな、間違いだったらどうするんだ?」
行動を嗜められるが
「その時は殺されるだけです、合ってたんだから良いじゃないすか、行きますよ、俺が先に行って騒ぎまくりますから、先生はこっそり宝井さんを助けに行ってください」
俺は多分間違っていない。
すぅっと大きく息を吸い込み、自分の頬をパチパチと叩く。
俺は今獰猛な笑みを浮かべているに違いない。
「待て、その役は俺が…」
「たのもー!」
立花の静止も聞かずに門をドカンと開け、中に飛び込む。
すぐにヤクザの仲間がぞろぞろと出てくる。
「てめぇ、バットなんか持ってなんのようだ!」
1番近いヤクザが俺の目の前まで来て、睨みを効かせている。
ざっと数えただけでも6人か…死んだかもな。
「囚われのお姫様を助けにきたんだよ、わりぃけど、宝井静香を返してくれよ」
と言うと口々にヤクザが俺を馬鹿にしたように笑い出した。
「ひーっ、笑いすぎて腹が痛えや、小僧なのか小娘なのか知らねえが、怪我する前に帰んな」
と右手で肩を叩かれたので、すかさず右脇腹にバットをフルスイング。
これまたドゴォっと鈍い音を立てて男が崩れ落ちるのを横目にバットを振りかぶり、2番目に近い男に投げつける。
バットは避けられたが、跳び膝蹴りを顔面に叩き込み、ノックアウト。
転がっているバットを拾いあげ、空に向ける。
これでここにいる男達の視線は全て俺の方に向いている。
その男達の後ろをこっそりと立花が、歩いていく。
後は頼んだぞ、立花先生。
男達は固唾を飲んで、次の俺の行動に警戒している。
「これでわかったろ?俺はただの高校生じゃねえ、やるなら殺す気でこいよ、じゃないと俺がお前らを殺しちまうぞ」
「やろう舐めやがってぇえ!」
挑発に耐えかねたのか1人が突っ込んでくる。
拳を大きく構えて走り込んでくるのでコンパクトに突きを放つ。
「…っ!」
突きが胸元に直撃し、悶絶しながら崩れ落ちた。
いける、一対一なら負けねえ。
「おい、全員で囲むぞ」
っち、頭の良いやつがいたか…。
先制攻撃も不意打ちも使ったからバレているだろう。
男達が広がり、俺を囲むようにしてジリジリと歩を進める。
それに対してバットを上段に構え、覚悟を決める。
囲んでくる4人のうち3人と距離を取るように正面の相手に向かって全力で踏み込む。
バットを肩目掛け、思い切り振り下ろす。
男の肩に直撃するかと思っとところでバットは空を切り、地面に叩きつけられた。
「お前こそ殺す覚悟ができてねえな」
ドスンと、俺の腹に、男の拳が突き刺さる。
呼吸が出来ないほどの衝撃にバットを手放してしまう。
そして前に出た頭を、掴まれ、思い切り地面に叩きつけられた。
「っぐうぅ!」
「殺す覚悟が出来てたんなら、俺の脳天をカチ割れたよな!」
再び頭を持ち上げられ、地面に叩きつけられる。
固い地面との衝突に脳が揺れ、意識が朦朧とする。
「なぁ坊主、借りた物は返さなきゃいけねえ、それはわかるよな」
男が何か言ってくるが、地面に顔を押し付けられているので答えられるはずもない。
「あの女の親父は借金作って飛んだの、じゃあ家族に返してもらうしかねえだろ?な?」
無理矢理、顔を男の方に向けられる。
人を痛めつけるのが好きだ、と言わんばかりに狂った笑みを浮かべている。
「だからあの子にはちぃと悪いが海外に飛んでもらってよ、体を使って稼いできて貰うだけよ、大丈夫だ、見てくれもいい。数年もあれば帰って来れるだろうよ」
抵抗しようとしても脳が揺れたからか、体がうまく動かない。
ちくしょう、またかよ…また守れねえのかよ…
「まぁ、変態が良く来る店だからよ、もしかしたら色狂いになって戻ってくるか、壊れて戻ってくるかなんてことはわからねえけどな!ハハ!」
男達が下卑た笑みを浮かべている。
くそ、動けよ、くそ!
「助けてぇならお前も一緒に海外に送ってやろうか?態度は悪いが、顔はいいもんな」
と男が俺の下腹部を弄ってくる、屈辱だ…自然と涙が溢れてくる。
嫌だ、やめろよ…!
「んだ、その顔で野郎かよ!!まあいいか、玉潰して売るか?それが好みの変態野郎も居るだろうしなぁ」
「兄貴ぃ、もう一匹ネズミが居やしたよ!」
男に屋敷の奥から誰かが引き摺られてやってくる。
ゴミでも捨てるかのように俺の横に投げられた男の顔を見ると、イケメンだった顔が見るも無惨に腫れ上がった立花だった。
「すまん…春日……」
ちくしょう、万事休すか……。
「ちっ、1人じゃなかったのかよ、だからお前が派手に暴れて俺の舎弟の骨を折ったのかよ!」
俺の顔をマジマジと見て商品に傷をつけたく無くなったのだろう、右腕を踏みつけられ、パキッと完全に折れた音がした。
「っぁああ!」
「おい、奥からあの女連れてこい!」
俺を痛めつけている男が後ろを向き舎弟に指示を出す。
折れた腕からは激痛が走っている…だが意識が完全にハッキリした。
今しかない。
「……覚悟が足りねえんだよな…」
折れた腕の痛みに構わず飛び上がり男の側頭部に、蹴りをかます。
ぐらっと男の頭が揺れるが、振り向きざまに拳を顔面にもらった。
「いてぇじゃねえか!おらぁ!」
続けて殴ろうと膝を曲げ、腰を落とした男の膝を足場に飛び上がり、男の顎を膝蹴り。
後ろから別の男が迫ってくるので、死にものぐるいで左ストレート…運良く男の顎につき刺さり、糸が切れた人形のように倒れ込んだ。
「てめえ!もういっぺんしんどけや!!」
まだ倒れねえのかよ…。
今度こそ殺られる…!と硬く目を閉じたが…いつまで経っても衝撃は伝わって来なかった。