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『唯の口調可愛いのに(´ε` )それにバレなきゃわかんないよ(o´艸`)』
「それなら無理だ。俺がバラす」
『なんで!それだとお姉さんの足が折られちゃう:(;゛゜'ω゜'):』
「折らねえよ。唯はドSだけど鬼じゃない」
『お姉さんには擽りが効かないんだよ?』
「だからって足は折られないだろ。つーか擽りで俺を陵辱したのはお前だ。唯じゃない」
わざとらしく小首を傾げる麗奈。
オセロ然り、麗奈には度々、遊びに付き合わされるのだが、擽りで先に根を上げた方が負け。という勝負に付き合わされたことがある。
同意のもと女性の体に触れられる。俺だって男なのだ!のらないわけが無い。
下心で勝負をした結果は散々だった。思い出したくもない。
「悠太がお漏らししそうにな――――」
余計な事を言おうとした千秋の口を、麗奈が塞いだ。
こいつ、言ったな?
『(´・з・`)フューフュー♪』
麗奈の口から出ているのは風切り音。相変わらず口笛は出来ていない。
「今どきそんな誤魔化しがきくかよ。ふざけやがって」
俺が躙り寄ると、麗奈は千秋を前に出した。
自らを盾にされた小学生は、頭の上に、はてなマークが浮かび上がりそうな表情を浮かべて、棒立ちだ。
「悠太。私ごとやっていいよ」
困惑じゃなくて、良い言葉を考えていただけのようだ。
それじゃ遠慮なく、なんて言えるわけがない。
「人質ごとやる覚悟なんて俺にはねえよ」
「えーっ。悠太には失望したよ。男ならズドンと」
「男なら、とか女なら、とか。今の時代そういうのは性差別って言うんだよ。今の発言がツイッターだったら叩かれてるところだ」
「麗奈?悠太がガキのくせに難しいこという」
『悠太が難しいこと言ってるのはいつもの事。カッコつけたいお年頃の男の娘だから(o´艸`)』
「よーし。千秋。動くなよ、お前ごと行くぞ」
右手を振り上げ、拳を握り込む。言うまでもなく冗談だ。
「逃げるよ麗奈。沙織、また遊んでね」
2人も冗談と知ってか、沙織さんに手を振ると蜘蛛の子を散らすように、事務所の門の方へ逃げていった。
伏見さんを忘れてやるなよ。ニコニコしながら手を振ってる沙織さんの横で空を見上げてるぞ。
「んじゃ、沙織さん。今日はありがとうございました」
沙織さんに軽く会釈をした。
「お気になさらず〜。むしろ急にお呼び立てしてすみませんでした」
「いえ。おっさんにも協力をお願い出来たんで助かりました」
人の父親をおっさん呼ばわりするのは、今更ながら失礼じゃなかっただろうか。
「まっ。使える場面があったら遠慮なく使ってくださいねぇ。少々やかましいですが、使えると思いますよ〜」
サラッと口にした。
俺なんかより、言い過ぎな人がここに居るから問題ねえな。
「居るだけで圧がありますもんね」
見た目だけで言えば、泣く子もヤンキーも黙って下を向くレベル。喋ると弄りがいのある、おっちゃん。
「それだけしか取り柄がありませんからねぇ」
「……言いすぎっすよ」
娘Loveを全面に押し出したおっさんが、実の娘に、ここまでクソみそに言われてるのを聞いてると、流石に可哀想になってきたぜ。
「悠太ー早く行こー」
『アイス(*'▽'*)♪』
待てのできない大きなガキが2人。片方は本当にガキだけど。そもそもアイスの約束はしてねえだろ。
「すみません沙織さん。行きますね」
「ふふっ、送っていきますよ〜。みんなでアイス食べに行きましょ?」
「いや、帰りもなんて悪いっすよ、歩いて帰ります」
まあまあ、良いですから〜。と俺の背中を押す沙織さん。
有無を言わさぬ雰囲気だ。ここは逆らわない方がいいだろう。
「お姉さんからの、ささやかなお礼です〜」
なんの事だ?
「父との仲を……取り持ってくれたでしょう〜?」
口角を上がっていて、メガネの奥の目は、糸のように細くなっている。
それはそれは大層綺麗な笑顔。やって良かった。と思わせてくれる。




