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「麗奈と、少し寄り道してきた」
「ドコニ?」
「……アイス食いたくなったから」
家に着く前に確認した時点で、時刻は既に19時前。
15時に学校を出てもそんなに遅くなるはずがない。苦しい言い訳だ。
「ウソダヨネ。イツカラウソヲツクヨウナ、ワルイコニナッタノ?」
抑揚の無い発声で追い詰めてくる。俺の良心に訴えかけるように。
「こんなの嘘の範疇に入らねえだろ」
「お姉ちゃん怒ってるんだけど、わからないの?」
ドアを開け、姉ちゃんが家から出てきた。
「姉ちゃん、ずっと怒ってばっかだな。仕事で疲れてるのか?」
「悠太が心配ばかりかけるからでしょ!!」
「……っ。殴るなら、殴れよ」
あくまで、ふざけ続ける俺の胸ぐらを姉ちゃんは掴んで引き上げた。そして俺を殴ろうとするが、姉ちゃんの瞳からは戸惑いが伺える。
姉ちゃんは俺に過保護すぎるんだよ。俺だって、いつまでもガキじゃない。
「理事長に俺の事を話したの姉ちゃんだろ」
姉ちゃんの顔を、瞳を真っ直ぐ見る。
別にキレてるわけじゃない。
「だったらなに?」
動揺はしないか。
「なにってわけじゃないけど少し過保護過ぎないか?」
「過保護って悠太が無茶ばっかするからでしょ!!」
「……俺は、正直。生きづらい」
内藤の件で散々っぱら自宅待機を余儀なくされた俺は、息の詰まるような期間を過ごした。
「悠太が事件に関わるようなことをしなければ私だって心配しないわよ!」
「やっぱ、事件の事も知ってたんだな。それはいいけど……俺は誰になんと言われようと、この事件に関わる。もう決めた」
「高校生が手を出していい事じゃないからやめなさい!」
「いやだ」「っ!」
拒否したと同時に、姉ちゃんに平手打ちをされた。
それでも姉ちゃんの顔から視線を外さない。
「あなたは葉月ちゃんじゃない!!強くもなんともない!だから」「その先は言わせねえぞ」
胸ぐらを掴んでいる姉ちゃんの手を振りほどいた。
そうだ。言ってやれ!春日悠太!
「俺は葉月姉ちゃんみたいに強くねえ。もしかしたら怪我もするかもしれねえ。そんなことは分かってる……でも」
俺が手を振りほどいたことで、姉ちゃんはたじろいでいる。
俺はもう守られるだけの存在じゃない!
「この事件のターゲットが姉ちゃんだったら!麗奈だったら!俺はどうしたらいいんだよ!!!」
姉ちゃんの肩を両手で握りしめ、引き寄せた。
俺はこの街に来て数ヶ月。短い期間だけど変われたんだ。
「せっかく。最近、楽しいと思えることも……おおくなったのに。馬鹿げたサイコ野郎の。起こしたことで、4年前みたいに、なったら俺は……どうしたらいいんだよ……」
「……悠太」
……ちくしょう、涙が……。
あのことを思い出すと今でもキツい。だけど……!
「この町で、これ以上。俺たちみたいな思いをするやつが居て欲しくねえんだよ!大好きな姉ちゃんだから。大好きな友達だから!巻き込まれる前に守りてえんだよ!」
俺は、姉ちゃんや麗奈達を守る為だったらなんでもするつもりだ!
「確かにっ、俺は、姉ちゃんの言うことを聞かない。ずずっ悪い弟だ……でももう死ぬような危ない……ことはしない。みんなと力を合わせて解決するつもりだ!」
姉ちゃんの瞳が湿っけを帯び、揺れている。
「でも!悠太がしなくても!」「失う苦しみを知ってる俺だからこそやるんだよ!」
姉ちゃんの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
姉ちゃんも分かってるだろ?こうなった俺はもう止めるだけ無駄だ。
沈黙が流れる。長い長い沈黙だ。
姉ちゃんは顔を俯かせて泣いている。
麗奈はただただ黙って俺の後ろに立っている。
……女性の涙は苦手だ。
「姉ちゃん。いつも心配してくれてありがとう」
俺は麗奈がいつもしてくれるようにして、姉ちゃんを抱きしめた。
姉ちゃんには、ずっと心配をかけてばかりだったな。




