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俺が座っていた切り株を指さし、琥珀さんに男を降ろしてもらった。
「私も居るからもう起こしてもいいんじゃないか?」
確かに捕縛しなくてもいいような気がする。
「涼夏ももう少しかかりそうだからそうしましょうか」
唯はそう言って切り株の上に横たわる男に近づいていった。何をするつもりなんだ。
麗奈も俺も琥珀さんも見守る中で唯は足を引き、振り抜いた。
迷った様子もなく、当然のように振り抜かれたつま先は男の股間にめり込む。
「…………うぐっ、ぐぁぁあ」
男がくぐもった声で唸る。
うわぁ……いったそー。悠太くんの悠太くんも縮み上がっちまったぜ……。
「何故蹴られてもいないあなたが股間を抑えているのかしら?」
唯が俺を見て言った。
「……女にはわかんねぇ痛みだ。他人事じゃねえんだよ」
本当に。ブランコから飛んで鉄柵にジャストミートした時のことを思い出したぜ……。あの時は本当に潰れたかと思った。
思い出すだけでも、きゅーっと締め付けられる思いだ。
とは言え、誘拐犯を捕まえたのは俺だ。このまま女性に任せて自分は縮み上がっているのは情けない。ここは男としての威厳を見せつける為、率先して動かねば。
「……ぐうぅ」
「起きたか?おっさん」
男の髪を掴み顔面を持ち上げて無理やり目を合わす。
「……かわいいぐべぁ!」
考えるよりも先に手が出ちまった。普段から可愛いって言われるのも嫌なのに、犯罪者に可愛いって言われたら殺意しか湧かねえっての。
「何をするんだ!!」
俺が殴ったことで男は怒り、立ち上がろうとうつ伏せの上半身を海老反りに上げた。頭を抑えつけ力任せに切り株に激突させた。
「……っぐぁあ!」
「誰が頭上げて良いって言ったよ……なぁ、お前誘拐犯だろ?」
情けない悲鳴を上げた男の頭をぐりぐりと切り株に押し付け、質問を投げかけた。
「いでぇ……いでぇよぉ……」
「なぁ、お前が犯人なんだろ?痛がってねえで教えてくれよ」
ぐりぐり、ぐりぐり押し付ける。痛がっても。
「なんのごどだょぉ」
しらばっくれやがって、さっさと吐けよ。
「素直に言わねえと痛い目に合わすぞ」
「痛い目にはもうあってると思うのだけど」
更にって意味だよ、言わなくても分かってくれよ。
「誘拐したんだろ?」
「じでない!おれじゃない!」
「そっか。痛みが足りないか」
男の頭を切り株に押さえつけたまま右手を振り上げる。
「おれじゃない!誘拐なんてしてない!!」
俺のやろうとしてることを察知したのか、男は否定を強めた。
「じゃあ……あの場で女子高生相手に何をしようとしてたんだ?嘘はつくなよ?」
俺以上に過激なやつが沢山いるからな、出来ることならここで自白して欲しい。琥珀さんなんて、俺と代わりたそうに拳をパキパキ鳴らして臨戦態勢。
唯もどこから取り出したのか手に持ったスタンガンをバチバチ言わせてる。
俺はこいつのためにこいつを痛めつけてるまである。
「……レ、レイプしようとしてました」
「あーなんだただのレイプ犯か」
疑いまくって損した気分だ。襲ってる場面にも遭遇したからてっきりこいつが犯人かと思って早合点したぜ。
「だからっていいわけねえだろ!」
「がぁあ!!!」
俺は男の後頭部に肘を振り下ろした。
危ない危ない。目的の人物じゃないからって聞き流しそうになった。レイプも人の尊厳を踏みにじる重罪じゃねえか。
「うるせえよ。一々騒ぐな気持ちわりぃ」
もう一撃。後頭部にもう一撃。骨が軋む音がした。
気持ち悪い。本当に気持ち悪い。自分がやられた時だけ大袈裟に騒ぐなよ。もっと嫌な思いをした被害者がいるだろうがよ。
「レイプってのは人殺しと同じなんだよ。された方の気持ちとか考えたことあるのか?あぁ!?」
「ひぃい!!!!やべでぐれ!鼻が折れだぁ!」
「ねぇよなぁ!ねえからやるんだもんな!」




