32頁
32
マジかこの人、もしかして馬……いや、愚直に素直な人なんだ。
『そうだよ。琥珀は馬鹿なんだから気をつけないと(o´艸`)』
俺にだけ見えるよう麗奈はスマホを見せてきた。
「ふへっ」
あぶねえ、笑いそうになったぜ。良い表現を頭の中で模索したのに台無しになるとこだった。
「なんだ少年!人を馬鹿にしやがって!天誅を与えてやろうか!」
足をオープンスタンスに開き、膝を曲げ、拳をこちらに向け構える魔王。おっと天に召される時が来たようだ。
唯が来たからふざけてもいいと思ったのに方や本気で挙句殺されるとは、無粋にもいい人生だったとは言えない。こんな所で死んでたまるか。
「待ってくれ。俺は敵じゃない」
「敵はみんなそう言うんだ……少年、残念だよ。なにか言い残したことはあるか?」
言いながらジリジリとすり足で前に出した右足をこちらにスライドさせた。
「せ……」
「せ?」
「せっかくの可愛い顔が台無しだぜ。琥珀さんに怒った顔は似合わないよ」
琥珀さんの顔が真っ赤に染った。
うわぁ、すんごい顔で唯が俺を見てる……麗奈も「またやった……」って言いたげに俺を見てる。
仕方ないだろ!俺だって命は惜しい!この人を止めるにはこのやり方しか知らないんだよ!
「しょ……少年。そう言うのは人前で言われると……その……恥ずかしっ」「ねえ春日さん。今のは何なのかしら??」
身悶えしながら恥ずかしがる琥珀さんを押しのけ、唯が前に出た。口調は他人行儀で怒気を孕んでいて背中に阿修羅が浮かんできそうだ。
「いえ、その……」「琥珀さんの怒りを鎮めるためだけに言ったのよね?そうよね?あなたからそんな歯の浮いたセリフが出てくるとは思えないもの」
なるほど、唯は俺の特性を理解してるな。だが、この場でその発言はさっきの再現になりそう。
「またか!また私を弄んだのか!!」
ほらな、生粋のチョロインこと佐々木琥珀さんの激昂だ。本日三回目だ、少し飽きたと言っても過言ではない。
「今日三回目っすよこの流れ。そろそろ俺の言葉を信じません?」
「た、確かにそうだな。少年……疑ってごめん」
物怖じしない俺の発言に信憑性を持ったのか謝ってきた。
「なら、私の事はどう思っているのかしら?」『お姉さんは?』
もうこのネタは封印しよう。琥珀さんを弄るのは楽しいが続けてるといつか刺されてしまいそうだ。
「場所、移動しないか?琥珀さんもいる事だ、安心してこいつを拷問できるからさ」
茶番ばかりしていて時間を浪費すると姉ちゃんが先に帰ってくることにもなりかねん。
そしたら顔に出る俺の事だ。誘拐犯探しをしていることが姉ちゃんにバレて俺と麗奈はめちゃめちゃ怒られるだろう。
「話を逸らさないでくれるかしら」『そうだよ( ๑º言º)』
「唯が今日うちに来て麗奈と一緒に姉ちゃんの怒りを沈めてくれるならいくらでもここで話そう。どうだ、怖いだろ」
「あなたがわかりやすいのがいけないのではなくて?」
心臓を矢で貫かれた気分だ。そこまではっきり言わなくてもいいじゃん。
俺だって俺が悪いことくらい分かってるよ!でも嘘つけないんだ。あぁ、すぐ表情に出てしまう自分の顔が憎い。
「現実を突きつけるな。そういう性分なんだ。助けてくれよ」
『素直に可愛いって一言言えば終わるのに(o´艸`)』
お前が1番可愛いっていうまで終わらないくせに。
「ほら、行くぞ。丁度そこに林があるから、涼夏にはLINEしとけばいいだろ、つか美鈴は一緒じゃないのか?」
「涼夏の後を追って行ったわ。琥珀さんがいるから悠太はほっといても大丈夫って言ってたわね」
「涼夏の足が早いからロープ頼んだのに美鈴がついていったんじゃタイムロスじゃねえか」
「それなら気にしなくても大丈夫よ。涼夏が出発した後に匂いを辿って行ったから涼夏の足は引っ張ってないもの」




