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嫉妬?俺の目を見つめる麗奈の瞳には怒りの色が色濃く映っているように見える。表情はいつもと変わらず。ただほんの少し眉が上がっている気がする。
「……同じ学校の、多分理事長の孫」
『なんで匂いが移ってるの?』
そんなに接触した覚えはないんだが。
「わかんねえ、水を貰った時に背中を支えて貰ったからか?」
『水を貰ったの?』
「あぁ、飲みさしを」
『(*_*)』
どんな感情だよ。
麗奈は徐にペットボトルに口をつけた。
水を飲まずに口から離すと、俺の顎に右手を添え、クイッと持ち上げた。
「待て、あれは不可抗力であって俺が望んだことじゃない!待て!まて!ごぶぶぶ!!!!!」
こいつ!!無理やり飲ませるどころかペットボトルを握り潰して来やがった。
嫉妬からくる行動ならぶっちゃけ嬉しい。けども、鼻から出たぞ、水が……うぅ、鼻が痛い……。
『浄化完了(o´艸`)』
見たことも会ったこともない女子をバイ菌扱いするんじゃありません。
『君はお姉さんの男の娘だから、その辺の女狐にはあげない(҂˘̀^˘́)ง』
「男の娘じゃなくて、男な?厄介オタクみたいだぞ」
『厄介オタクでもいい。君はお姉さんが守る(/ω\)』
厄介オタクなのは認めるのか、まああんな本を目の前で読んでるくらいだからな、認めざるを得ないだろ。
守るって言葉も、もっと違う場面で言われてたらときめいてたのに、残念だ。
『2本買ってきたけど、もう1本いっとく?(*°∀°)=』
「貰った分を返そうと思ったけど、いいや帰っちまったし。俺が貰っておくよ」
コクコクと麗奈が頷き、先程同様、キャップを空けて口をつけ、水を少量飲んだ。
そしてペットボトルを俺にくれた。
『急いできたからお姉さんも喉乾いちゃって(▰╹◡╹▰)残りは君にあげる』
1本目の時そうしたら良かったんじゃないかな。
「おう、飲むなら全部飲んでもいいぞ」
『お姉さんからの水は受け取れないの?他の子の水は飲んだのに』
「自発的じゃねえよ。俺の事を女だと思って無理矢理だ」
『……なんだぁ、そうなら最初から言ってくれれば良かったのに』
「言っても聞いてくれなかったのはどこのどいつだろうな」
『……♪~(´ε` )』
麗奈はイタズラがバレて怒られそうな子供がするように目線を斜め下に逸らして、スマホを見せてきた。
口でも口笛を吹こうとしているが、下手くそなのか、ふーふー空気が漏れているだけなのが滑稽だ。
俺は立ち上がり、麗奈の頭を掴んでこちらを向かせた。効果音を付けるならギギギが合いそうだ。
だが、目だけでも抵抗を続け俺と目を合わせようとしない。
「……あやまれ」
『お姉さん悪くないもん:(;゛゜'ω゜'):』
「悪くないか、そうか」
麗奈のほっぺを摘み軽く引っ張る。やわらけえ……。
『痛い(´#)ω(#`)』
「罪には罰だ。謝れば許してやったのに謝らない悪い子には罰が必要だろ?」
叱るつもりがニヤけながら言ってしまった。その顔文字は卑怯だろ。
『麗奈悪くないもんヽ(。ゝω・。)ノ』
「……可愛いじゃねえか」
あまりの可愛さに頬を摘んでた指を話してしまうくらいには可愛い。
『ふふん。お姉さん可愛い?ねぇねぇ、可愛い?|*・ω・)チラッ』
チラ見どころかガン見なんだけどな、下、横上、斜めと色んな角度からこれ見よがしに俺の顔を覗き見て、俺をからかって楽しんでやがる。
あまりそのお綺麗なご尊顔を近づけないで頂きたい。青い髪がゆらゆら揺れてふんわりと良い香りが漂ってくるから俺自慢のポーカーフェイスも、責めに転じた麗奈相手ではいつまで持つかわからん。
最近ずっとこんな調子だ。顔を合わせると、からかわれて良いようにしてやられてる。
純情男子を弄びやがって……どうせこいつは照れてる男の娘可愛い!くらいにしか思ってないに違いない。




