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ちくしょう。森から出れたと思ったら、息が切れちまった。足も鉛のように重い。汗を掻きすぎたせいか頭もボーッとする。
「誰かぁっ!」
っだーもう!タイミング最悪なんだよ!
せめて自販機探して水を飲んでからとかさ!誘拐犯でもタイミングを伺えよ!!つうか折角女装した意味ねえじゃん!!
理不尽な心の叫びを上げた俺は、自らの頬を両手で張った。
パチンと音がして、少しの痛みが走る。まだやれる。気合いだけは充分。
結果巡り合わせで立ち会えたと考えれば、闇雲に走り回った意味もあった。自分を正当化してやる。物陰から飛び出して先手必勝だ。
すっかり重たくなった足を引きずるようにして、声のする方へと歩く。
住宅街でもないし、森と同じく人の通りそうな場所ではない、通学路の抜け道だろうか。
幼少期にこの街を駆けずり回って遊んだ俺でもここは知らない。
まさに変な事をするにはうってつけの場所だ。
「いやぁぁあ!!!」
声は曲がり角の先で聞こえる。行動を開始する前に状況確認だ。
現場を覗き込む前に少しでも呼吸を整えようと大きく息を吸い込み、吐く。
若干脱水症状気味だけど気にしていられない。
顔をちょこっと出して覗き込む。女子高生に誘拐犯らしき人物が掴みかかってる。丁度誘拐犯が俺に背を向ける形で襲ってるから飛び出しやすそうだ。
距離はおおよそ5m。思いっきり走れば俺に気づく前に先手を打てるはず、作戦はお得意の特攻だ。
大きく息を吸って肺を空気で満たす。意識を男の動きに集中させる。すぐ助けてやるからな。
目を見開き、息を止めて飛び出した。足の重さは気にならない。集中出来てる。
4m。3m。男はまだ気づいていない。女の子に夢中になってて気にしてないようだ。
2m。ここで地面を蹴って思いっきり跳躍し、膝を曲げ飛距離を稼ぐ。
1m。足を振り上げる。
「っだらぁ!!!!!」
振り上げた足を男の脳天目掛け勢いよく振り下ろす。
思わず声を上げてしまったが男が気付いた時にはもう遅い。振り向こうと男の首が動いたが、俺の渾身の一撃は、男の頭を捉えた。
「っぐひゃ!!!」
男が情けない叫び声を上げ、女の子の体にもたれかかり頭を抑えて悶絶している。
「いやぁあ!!」
女の子が叫ぶ。俺は男の土手っ腹に蹴りを一撃加え、女の子の上から男の体をどかした。
意識が朦朧としてきた……もう少し集中力を保たねえと。頭を軽く振り、女の子へ語りかけようと口を開く。
「っはぁ、はぁ、すぅっ。怖かったな……でももう大丈夫だ、逃げろ」
「ひぃい!」
女の子は俺を見て後退りをした。集中力が切れないよう無意識のうちに顔面に力が入っている。俺の眼力がキツすぎて怖がらせてしまったか。
「怖がらせてわりぃな……今熱中症なんだ」
女の子に告げてから、微笑もうとするが上手く表情を動かせない。それどころか動悸も激しくなり、吐き気がしてきた。
早く女の子を逃がして涼夏達を呼ばないと俺が天国行きになっちゃいそうだ。
戦って負傷した訳でもないのに恥ずかしい事この上ない。
それなのに、目の前の女の子は、へたり込んだまま動こうとしない。
「き、君も一緒に逃げよ!」
女の子は、ぐいと顔を上げ乱れた髪の隙間から目を覗かせると、俺と目を合わせ提案してきた。
「不安な……気持ちは分かるけどっ、うぷっ、それはできない」
やべぇ、喋ってる途中で戻しそうになった。
「……でも」
「いいからさっさといけ」
喉を狭めながら言った。本気で吐きそうだから!まじでこれ以上喋らせないで欲しい。
「あの……その、腰を抜かしちゃって、てへ」
女の子はヘラヘラとした笑みを浮かべた。こんだけ怖い目に合えば腰くらい抜かすよな、逃げろだなんて俺の計算不足か。
でも参ったな、俺も体力の限界ときた……。
「はぁ」
溜息をつき、蹴り飛ばした男を見る。




