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「あら麗奈ちゃんもそれを読んでるのねー!!ほら、私も読んでるのよ!」
理事長室に戻った俺の目に飛び込んできたのはソファーの対面同士に座り、お互いの愛読書を見せ合い楽しそうな二人の姿だった。
麗奈が手に持っているのは名前を思い浮かべたくもないいつものあれ。それと同じものが理事長の手にも握られている。
「いいわよねそれ!挿絵の男の娘が春日くんにそっくりなのよね!」
声色高く発された理事長の声、こっちからは確認することの出来ない麗奈のスマホ。
だが動きの少ない麗奈にしては首を縦に振る速度が速い。
この二人のやり取りに俺は戦慄を覚えた。
俺の戻りに気づかず、本の話で盛り上がる二人。自分をネタにされてるだけあって聞くに耐えない。今すぐやめて欲しい。ていうか飯食うなら飯食うでさっさと食いたい。もう腹減って死にそうだ
「すぅー、戻りました!」
大きく息を吸い、腹に力を入れて大声で言ってやった。
麗奈が肩をはね上げ、無表情のままこちらを向いた。
「それでね。麗奈ちゃん、ここのところなんだけど」
大声にも微動だにせず、理事長は話を続けた。
俺が戻ってきたことに気づいてて、無視をしているに違いない。
俺は2人の元へと歩み寄り、ふてぶてしく、どかっとソファーに腰掛けた。
ローテーブルの上には重箱を包んでいた風呂敷が広げられており、それぞれ3段3つ、麗奈の前、理事長の前、理事長の隣に置かれている。
俺か麗奈に、隣に座れと言いたいのだろう。でも俺の隣大好き麗奈ちゃんが俺の隣を譲るはずがない。
「あら、戻ってたのねぇ!不機嫌そうな表情も可愛い!」
「うっす。弁当貰ってもいいっすか?」
何を言われようと、この人には抵抗するだけ無駄だ。
「そうね!お昼の時間も終わっちゃうから頂きましょうか!」
そう言って理事長は弁当を差し出すことなく、微笑んだ。
隣に来い。という無言の圧力を感じる……。それどころか、俺が動かずにいたら、隣の空いたスペースを叩き始めた。
俺は思わず麗奈に視線を向け、助けを求めた。え?なんで目を逸らすの?
「麗奈ちゃんに助けを求めても無駄よ。契約を交わしたからね!」
一体お前はどんな契約を交わしたと言うんだ。
『そういう事だから今日は理恵ちゃんの隣に座って(´இωஇ`)私達の為なの』
俺の隣に座ることと、その契約とやらを天秤にかけ。契約が勝ったらしい。麗奈の中じゃ苦渋の選択だったんじゃないかと思う。
「ちなみに契約の内容は?」
事と場合によっちゃあ俺は隣のこいつをしかり付けなくてはならない。
「乙女の秘密……よっ。ほら早く隣にいらっしゃいな」
知ってた。まともな返事が帰ってくるとは思って無かったもん。
麗奈に目線だけで「いいんだな?」と合図を送ると、麗奈は恐る恐る頷きかえした。
麗奈の決心がそこまで固いなら仕方ない。こいつが俺の隣を譲るってことはきっと背に腹はかえられない重大な契約なんだ。きっと。
ならば俺も協力してやらんでもない。
俺はソファーから立ち上がり、理事長の隣へ席を移した。麗奈も、俺の対面になるようにスペースを移動した。
「ささ、食べて食べてー理恵ちゃん特製弁当よ!」
「いただきます」
手を合わせ、食前のいただきますを言い、重箱の蓋を開く。
美味そうだ。その一言に尽きる。
まず白米、時間が経って冷めているのだが 、つやつやで俺に食べてくれと語りかけてくるようだ。アクセントでふられているごま塩もポイントが高い。
米を1口、箸で口の中に放り込んで咀嚼する。あぁ……美味い。炊き方なのか。ブランド米なのか。はたまた両方なのか。
料理に関してど素人の俺でもわかる。これは恐らく両方だ。
おかずの方はご飯に合う金平ごぼう、弁当には定番の唐揚げ唐揚げの下にはレタスが敷かれていて、彩りにプチトマトがちょこんと鎮座している。




