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不意に、涼夏が口を開いた。
最近一緒に出かけてないから土日くらいは良いだろ。夏休みだからと言って特に予定もない。
千秋も遊びに来るだろうし、底抜けに明るいこいつが一緒ならあいつもすぐ打ち解けられるだろ。
「いいぞ。むしろ俺からお願いしたいくらいだよ」
千秋と遊んでやる頭数が増えるのは大歓迎だ。
俺には女子小学生と何をして遊んでやったらいいかわからん。麗奈と日課のように対戦してるオセロも、小学生ならすぐ飽きちゃうだろうし。
自分が小学生の時は涼夏と何やって遊んでたっけ……。
木登り。
虫取り。
鬼ごっこ。
河原で水切り。
うん。どれもいい思い出だ。
だけど、千秋は女子だ。汗だくで外を駆けずり回ってた男子生徒の俺達とは違う。
性別で遊びを分けるのは良くないが、あいつは大人しそうだからこう言った遊びとは無縁だろ。
「なぁ、小学生の女の子が喜びそうな遊びって何か知ってるか?」
夏休みの男子生徒の遊びを率先してやっていた涼夏に聞くのは恐らく野暮だ。
それでも、こいつは一応女子。聞いてみて損は無い。
「……ゆ、悠くん。中々私に靡かないと思ったら……小学生が好きだったの!?」
口元を引き攣らせ、目を細めた涼夏がムカつくくらい引き気味に言いやがった。
「ロリコンじゃねえよ!」
俺は叫んだ。周囲で騒がしくしていた生徒達の視線が俺へと集まってくる。
侮蔑を含んだ目を向けられたかと思いきや、集まった視線は何故か生暖かい。
「春日くんと小学生の組み合わせ……お姉さんぶってる春日くんが想像出来て可愛いよね」
「わかるわー!遊んでやるって言っときながら女の子より楽しんでそう!」
「何それかわいいいい!でも女の子に危険が迫ったら一生懸命守るんでしょ??」
「そりゃ勿論……小さな体の後ろに女の子を隠して「俺が守るから、お前には指1本触れさせねえよ」とか?」
「「…………てぇてぇ」」
固まって喋る女子の会話が聞こえてきた。
他でも、山田くんたちが俺を見ながら話してるのが聞こえてくる。
どいつもこいつも俺に聞こえてないつもりで話してるみたいだけど丸聞こえなんだよ……。
「悠くんモテモテだね」
涼夏が笑う。
「嫌なモテ方だな。俺を女として見てやがる」
中田との一悶着以降。教室で他人が俺を見る目はまるっとかわった。
正確には橋元を教室で成敗して以降……か。
前は涼夏達以外には無愛想。という事で目立った接触は無かったのだが、最近俺の格好で妄想する輩が現れたり、あの時助けてくれた山田くんたちが話しかけて来たりするようになった。
そうだ、橋元と言えばあれから2週間くらい経つけど、約束通りあいつらは毎朝ちゃんとトイレ掃除しているらしい。
教室でもめっきり騒がなくなり、何かに怯えるように教室の隅っこで日々を過ごしている。
多分、親父が何かやったのだろう……。
「小学生の女の子って千秋ちゃんの事でしょ?」
「わかってるなら茶化すなよ……」
「悠くんが遊んであげるなんて珍しいこというから、つい、ねっ」
「そこまで珍しいことでも……あるか」
「そうだよー!誘っても全然付き合ってくれないんだもん!」
夏祭りも断り、帰りの寄り道も断っていた。
それもこれも俺に監視をつけていた内藤の所為、付き合い悪いと思われようが俺は悪くない。
「しょうがねえだろ……俺が狙われてたんだから」
「別にそんなの気にしなくても私が悠くんを守るのに……」
女子に守られて出掛けるなんて男として俺のプライドを考えて欲しい。
「お前を危険な目に合わせてどうすんだよ……まあ、もう心配事もねえから今まで通り出かけられるよ」
「それも私に声掛けてくれないしさー!!ぼっこぼこのぎったぎたにするつもりだったのにー!!」
そんな可愛く手を振りながら怖いこと言われても何も言えねえよ。




